コンプ、というと、高校時代から僕にとって謎だったことがある。それは SUGAR BABE の "SONGS" のギターだった。
"SONGS" の曲、たとえば "DOWN TOWN" や『風の世界』『ためいきばかり』などでの、ギターのいわゆる白玉が、とにかく伸びるのだ。しかも、発音後の時間経過に伴って定位が変わる。これが絶妙だったのだけど、一体どうやっているのかが謎だったのだ。少しして、ああそうか、片方のチャンネルが普通に減衰していって、もう片方のチャンネルは発音時にがつんと音量が下がって、その後徐々に音量が上がってくるように変化しているのだ、と、ここまでは気付いたのだけど、その後がとにかく謎だった。当時の村松氏は Roland AS-1 というサステイナーを使っていたらしいのだが、いくらフォトカプラーのコンプでも、これはどう説明したら良いのか、ちょっと分からなかったのだ。
そして、もう10年以上前の話だけど、MXR DYNACOMP を買ってみたわけだ。まあ未だに使っているのだけど、OTA (Operational Transconductance Amplifier) を使っているので、アタックがパコーンという感じに派手に出る。これはこれで非常に有用なのだけど、本来のコンプとしてはイマイチだとも言える。そして、アタックやリリースが決め打ち、というのも問題だ。そもそも SONGS のあの感じではない。うーむ……と悩み続けていたわけだ。
今は、当の村松邦男氏が種明かししてくれているのを彼の文書で読むことができる。デンスケの ALC、と聞いて、僕の疑問は即座に氷解した。確かにそうなる。それに、これはいかにも笛吹銅次ならではのやり口である。
ということで、コンプに関しては、以下の2つを製作する予定である。
- フォトカプラーを使用して、アタックやリリース、compression ratio も調節できるコンプレッサー
- アナログテレコに使われていたような ALC(国際的な名称で言うならば AGC)を用いたサステイナー
まあ、ベース用にもちゃんとしたコンプは必要だったので、丁度良い機会なのでちゃんと作ることにする。うまく行けば来月中に完成する……かもね。まあ遅くても再来月までには作りますが。
ワウを使うときにいつも困るのが、フィルターの効き具合をどのように設定するか、ということだ。これに関しては、機械的な要素(ポットのピニオンギアとペダルのラックの噛み合わせ)もあるし、コンデンサやインダクタ、抵抗の設定もあるので、どのように設定するか、というのは本当に悩ましいところなのだ。
以前に書いたように、僕の使っているワウの場合は、いわゆる Clyde McCoy と呼ばれる最初期のワウと同じ回路構成にしてあるわけだけど、この昔の構成と、現行の V847 の回路との最大の相違が、インダクタと並列に入っている抵抗の値である。現行はたしか 33 kΩ になっていたはずだけど、僕の場合はここを 100 kΩ に変更してある。こうするとフィルタの Q(選択度)が上がって、ワウのかかり方がきつくなるわけだけど、僕の使い方ではこれはやはり少々キツいかもしれない……と、ここ何日か使っていて思うわけだ。うーむ。ここを半固定抵抗に換装した方が良いかもしれない。手元に丁度 100 kB の VR もあるんだが、外から調整できるようにする程でもないかもしれないしなあ……それか、スイッチで 33 k と 100 k を切り替えられるようにしても良いかもしれない。インダクタ周辺の素子に関して配線を引き回すのはあまり気持ちの良いものではないんだが……
まあ、こんな調子である。早く落ち着けて、録音に集中しなければならないのだが……
僕の音楽嗜好はややファンク寄りなのだけど、その割に僕自身はワウを使うことが少ない。とはいえ、なければないでこれは困るわけだ。
ということで、ヤフオクで Vox V847 のジャンクを落札した。売主が言うには「ピーピー言うだけでどうしようもない」とのことだったのだが、まあトランジスタが駄目になったのかもしれないし、そんなものはどうとでもなる。そもそも、買ったままでワウを使うことは僕には考えられない。トゥルーバイパス化が最もしやすいエフェクタでもあるし、回路もシンプルな分あれこれ手を加えられる。だからジャンクで全く問題なかったわけだ。
品が配達されてきて、最初にすることは裏蓋を開けること……ふん。なるほどねえ。Vox のワウ、それも今回のようなアメリカで作られていた頃のワウには、いわゆる AC アダプタ用の端子がない。前のオーナーによるものだろう、それが増設されているのだけど、アダプタ端子の電極に直付けで電解コンデンサが入っている。
ノイズ対策として、このようなことをすることはそう珍しいことではない。しかし、僕は出来るだけこの手の ad hoc な(というか、姑息的というか)なことをしないようにしている。あと、まあ詳しい理由は後で書くけれど、ある理由から、この手のことは嫌なのだ。だからこのコンデンサをニッパで除去して、それから基板等をチェックする。パーツに過電圧・過電流がかかって壊れたような形跡はない。うーむ……どうしましょうかね。
とりあえず、ワウの消耗部品であるポット(可変抵抗)、あとトランジスタは交換することにした。これは、かつてイタリアで Vox のワウが生産されていた頃の回路構成に戻したかったからだ。トランジスタの変更以外にも、いくつかの部品の変更が必要なのだけど、とりあえず抵抗は金属皮膜(ヴィンテージのカーボン抵抗なんてのはあまり好きじゃないんで)、コンデンサはもともとフィルムなので、フィルタ特性を変える最小限の部分だけ、現行のフィルムコンデンサを注文する……で、この後、一応ダメモトでチェックしてみる、というのがいつもの手順なのだけど、まあどうせパーツ交換するんだし、それに今日明日は忙しいからなあ……と、そこで作業を中断していたのだった。
そして今日。昼過ぎに面倒な仕事があったのを片付けて、僕は大須をうろついていた。第2アメ横ビルでパーツを入手するためである。ワウの回路では、1箇所だけ電解コンデンサを使っているところがあるのだが、このコンデンサの静電容量だと、ぎりぎりメタライズドフィルムコンデンサで使える容量の品がある筈なので、そこを交換することにしたのである。ちなみに、60年代のイタリアで生産されていたワウも、ここのパーツはドゥカティ・エレットロニカ社(現在のドゥカティ・エネルジア社……あのオートバイで有名なドゥカティの関連企業である)の無極性電解コンデンサを使っていた。原理主義者でなくとも、ここは無極性の電解コンデンサを使う人が多いはずだ。たとえば、ニチコンの MUSE の両極性のものはオーディオ用として評価が高いし、入手も極めて容易にできる。しかし……僕は、使わなければならないところ以外に、あまり電解コンデンサを使いたくないのである。
これは電子工作をする人間にとっては常識、の筈なんだけど、実は電解コンデンサは消耗品なのである。電解コンデンサという位だから、コンデンサの中には電解液を含浸させた紙が入っているわけだけど、この電解液はほんの少しづつ揮発して失われていく。こうなると、静電容量が徐々に低くなってきてしまうのだ。「容量抜け」と呼ばれるこの現象のために、電解コンデンサは10年程で寿命を終えてしまう。しかし、だ……エフェクタなんてのは、そうそう時代で変わるものでもない。むしろ古いと値段が上がる位なのだから、経年劣化する部品は出来ればあまり使いたくないのである。メタライズドフィルムコンデンサは音質的には定評のあるコンデンサだし、それが使えるならそれを使ったって構わないわけだ。
そりゃ、パーツの値段は大違いだ……電解コンデンサだったら20円かそこらだが、大容量のメタライズドフィルムコンデンサだったら数百円位することだってある。パーツの大きさもそこそこ大きい。しかし、ワウで交換することになるコンデンサはたったひとつだし、ワウの筐体の中はすっかすかなので、一つ位大き目のコンデンサが入ったからって何も問題はない。だから、僕が組む時には交換してしまうわけだ。
大須から家に戻り、ふと考える。ひょっとして、ピーピー言ってどうしようもない、ってのは、あの AC アダプタ端子に付いていた電解コンデンサが容量抜けして、そこが原因で発振でもしていたんじゃなかろうか。どれどれ……と接続してみると……何と、何も問題なく動作するではないか。しかもポットもまだガリがきていない。うわー……知らないって怖いなあ。このワウ、完動品だったら5、6000円位で出回っているのに。
次は楽器の清掃だ。普通だったらレモンオイルで磨くところなのだけど、今回はオレンジオイルを購入。あと、クロスではいくらあっても足りないのでウェスを購入。これらでも落ちにくい汚れは、若干洗剤の助けも借りることにする。指板を磨き上げること、ローズウッドの指板に十分オイルを吸わせておくことが今回のポイントだろうか。
そうそう、ふと思い出した。大学生の頃、ローズの指板にきっちり油を染み込ませようと思って、楽器店でオイルフィニッシュ用の油を買ったのだけど、なんとこれがイワシの油。いやー往生したなああれは。一般的なオイルフィニッシュでも魚油って使わないと思うんだが(僕が知らないだけかもしれないが)。
しかしなあ。そろそろ、ちゃんとプロのメンテを受けるべき楽器もいくつかあるわけで、名古屋市内で店を探さなければならない。いや、ある筈なんだけどね、この大きさの街だし。はあ。しかし、こういうのは面倒だなあ。