北朝鮮のロケットと称するミサイルの発射が成功した。後付けで、金正恩が立ち合った等のニュースが流れている辺りはいかにも、と思わせるわけだけど、これに関してあまり声高に言われていない話を書こうと思う。
ミサイルとロケットの区別、というのは、実はあってないようなものである。アメリカの場合も、純粋に宇宙開発のために作られたロケットというのは、おそらくアポロ計画のサターンが初めてだったはずだ。マーキュリー計画で使われたレッドストーン、そしてマーキュリー計画からジェミニ計画まで使われたアトラスは、共に大陸間弾道弾のロケットとして開発されたものである。そういうわけで、北朝鮮の今回の「いわゆる」ロケットがミサイルの組み合わせだとしても、それだけで彼等を責めるということになると、少々話がおかしくなる。むしろ彼等を糾弾するならば、それは、今回のロケットの打ち上げのために国家の食糧費3年分とも言われる多額の金を費したことをもってなされるべきだろう。
今回北朝鮮が打ち上げたロケットは、1段目はノドンのロケットモーターを4本束ねたいわゆるクラスターロケット、2段目はノドンと同じく北朝鮮が開発した IRBM(中距離弾道ミサイル)であるムスダンのロケットモーター、そして3段目は詳細は不明だが、旧ソ連の SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)である R-27 Zyb か、独自開発の固体燃料ロケットかのいずれかだろうと言われている。打ち上げの映像をよく見ていただくとお分かりかと思うが、ロケットモーターの炎の中でベーンと呼ばれる推力偏向板がチラチラと動いている。あの規模のロケットをベーンで制御し仰せる、というのは、これはこれである意味技術的には大したものだと思う。
実は、人工衛星を自前の技術で打ち上げられる国は、今迄9か国しかなかった。米露英仏中、インド、イスラエル、イラン、そして日本である。厳密に言うと、ESA(欧州宇宙機関)に参加している国、たとえばイタリアや、旧ソ連から技術が継承された国、具体的にはウクライナなども入るわけだけど、歴史的経緯から言うと9か国、という言い方でいいと思う。ちなみに日本は、米ソ仏に続く4番目の人工衛星打ち上げ国で、しかも軍事技術の背景を一切持たない、という意味においてはまさにオンリーワンだと言っていい、世界でも稀有な存在である。
で、北朝鮮は10か国目の人工衛星打ち上げ国、ということになったわけだけど、これで鳶に油揚げを奪われたような心地になっているのが、実は韓国なのである。というのも、先月、韓国は人工衛星の打ち上げにまさに失敗したところだったのである。
【取材日記】奇形的開発が自ら招いた韓国ロケット「羅老」の教訓
韓国初の人工衛星搭載ロケット「羅老(ナロ)」(KSLV−1)は、高興(コフン)羅老宇宙センターで横になって精密診断を受けている。しかし先月29日以降、まだ正確な故障の原因は確認できず、いつ起き上がるかは分からない。10月の打ち上げ前にはロシア製の1段目のロケットに、今回は韓国製の2段目のロケットに問題が発生した。「準備は完ぺきだった」「今度は必ず成功させる」という科学者の言葉を信じた国民の失望感は大きい。
ロケットは衛星を宇宙に打ち上げる運搬体だ。米国・ロシア・日本など世界9カ国だけが技術を持つ。独自の発射体がない韓国は、1995年から今まで打ち上げた13基の衛星をすべて外国の地で、外国企業に任せた。巨額を支払っても技術を一つものぞき込めない“宇宙弱小国”の限界も感じた。このため自分たちの手で作ろうとして、10年前から8500億ウォン(約650億円、羅老5205億ウォン+宇宙センター33114億ウォン)を投入して挑戦しているが、いつも苦杯をなめている。
打ち上げの失敗は宇宙先進国も繰り返し経験している。日本はN1ロケットの技術を米国から丸ごと導入し、3回連続で失敗した。独自開発したH2ロケットも98、99年にN1の前轍を踏んだ。90年代から独自開発に着手したブラジルは03年、ロケット爆発で21人が死亡するなど3回連続で失敗したが、挑戦を続けている。
韓国もあきらめてはならない。とはいえ、「羅老」の開発方式には根本的に問題があると考えられる。独自開発でも技術導入でもなく、不明瞭な奇形方式だからだ。草創期から発射過程で多くの問題が発生する余地があるという指摘があったが、結局その通りになっている。ロシアと韓国が独自開発した1段目、2段目の各ロケットを打ち上げ1、2カ月前に連結するため、“相性”を徹底的に点検するうえで根本的な限界がある。しかも1段目ロケットはロシアが技術を徹底的に隠し、のぞき見ることもできない。一方、ロケット技術を保有する9カ国はどうか。独自開発や技術導入をし、開発・製作・試験など発射体全体を統合設計する方式を選択した。
「羅老」の奇形的な開発方式は韓ロ契約に基づくものだ。宇宙弱小国の韓国としてはやむを得ない条件だった。それでも「羅老」の相次ぐ打ち上げ失敗と延期の免罪符にはならない。科学界では開発過程の誤りに責任をあまり問わないのが慣行だ。しかし慣行に安住するのはよくない。単純なミスで打ち上げ失敗や延期などが繰り返されていないか徹底的に調べ、問題があれば厳重に問責する必要がある。しかも国産の2段目のロケットは製造から3、4年も経っている。保管過程、作動可否、部品点検など総体的な問題も確認しなければならない。避けられるものであるのなら、それによる国民の虚脱感はあまりにも大きい。
(2012年12月03日, パク・バンジュ科学専門記者, 中央日報日本語版)
ちなみに、この韓国のロケットの写真を見てみよう。ちなみに一段目はロシアの全面的な技術供与によって作られており、韓国が作ったのは二段目だけである:
……あー、いや、下からアオっている写真だと誤解されそうなので、そうではない図も示す:
……これはいくら何でも、アンバランスの極みだとしか言いようがない。
まあ、韓国が焦るのも無理もないかもしれないが、今迄軍事技術の裏打ちなしで衛星打ち上げに成功しているのが日本だけだ、ということを、彼等にも冷静に、よーく考えてほしいものである。日本は、東大の糸川氏(彼は死ぬ前にちょっとアッチ系になってしまったけれど)のグループが、黒色火薬の小さなロケットで障子紙を破る、なんて小規模な実験から始めて、数度の失敗の末にようやく成功しているのである。もうそれは43年近く前の話だけれど、今やったって大変なものは大変なのだ。もっと腰を据えて、バランス感覚を持って事に臨むべきではないのか。
今回の北の成功で、韓国のロケット関係者は今迄にもまして焦らされることだろう。やっつけ仕事は恥を重ねる結果を生むだけなのだから、いきなりロシアの技術など持って来ずに(何せ、韓国側は1段目に関してはタッチするどころか、打ち上げの制御も、通信も、近付くことすら許されていないのだそうな……そんなものに頼っている時点でもうダメダメだろう)もっと小さなところから着実に積んでいくべきなのではなかろうか。あの不恰好さを見るにつけ、そう思われてならないのだが。