「ねじれ」る前の「歪み」

「やまと新聞社」という団体が存在する。もともと『やまと新聞』というのは明治19年に創立された新聞で、今でいうスポーツ新聞のような存在(戦前はそのような新聞を「小新聞」と称していたらしい)だったのだが、昭和15年、この会社を買収したのが、かのロッキード事件で有名になった児玉誉士夫である。児玉は戦後にこの『やまと新聞』を『新夕刊』と改名して売り出すが、程なくして児玉は戦犯として収監され、『新夕刊』は何回ものオーナー交代を経ながら、その名称を:

『新夕刊』→『日本夕刊新聞』→『新夕刊』→『国民タイムズ』→『東京スポーツ』
と変えていった。そう、『やまと新聞』は、現在のあの『東スポ』のルーツなのである。

ところが、現在も「やまと新聞社」を名乗っている組織が存在する。幹事会社を名乗っているのだが、その背景はどうもはっきりしない。ただ言えるのは、この「やまと新聞社」が国会議員にタブロイド版の『やまと新聞』を配布していること、そして web においても『やまと新聞』を運営していること、そしてそれらの内容がかなり右傾したものであるということである。

U の知人が、今回の参院選に出馬していた蓮舫に関して、選挙違反があったのではないか、という噂を聴いた、というので、早速ググってみたところが、この『やまと新聞』の記事に行き着いた。読んでみると……なるほど。これは左右の別なく問題かもしれないな。

蓮舫に関して『やまと新聞』が主張していることは実にシンプルだ。蓮舫の選挙運動が、公職選挙法第146条に抵触しているのではないか、というのである。該当条文を以下に引用する:

(文書図画の頒布又は掲示につき禁止を免れる行為の制限)
第百四十六条  何人も、選挙運動の期間中は、著述、演芸等の広告その他いかなる名義をもつてするを問わず、第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為として、公職の候補者の氏名若しくはシンボル・マーク、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない。

この問題に関する記事は以下の URL で読むことができる:

http://www.yamatopress.com/c/1/1/2718/

要するに、蓮舫陣営は、選挙運動時に揃いの赤のシャツを着ていたのだが、このシャツには、事業仕分けの際の蓮舫のシルエットがプリントされ、その下に「SHIWAKE 2010」とロゴが入っているのだ。なるほど、これは確かに上の条文に抵触すると言われても仕方がない。しかもこの記者はちゃんと東京都の選管に確認を取り、

「公職選挙法第146条によりスタッフが同色のシャツを着ることだけでも違反になります。選挙期間中に候補者の氏名を連想させるものは全て禁止されています。シャツに名前やキャッチフレーズなどは認められるはずがありません」

というコメントまでもらっている、というのである。

そしてこの話はそれだけに留まらない。今回比例で立候補した有田芳生氏の選挙陣営でも、同一の行為が行われていた、というのである。この問題に関する記事は以下の URL で読むことができる:

http://www.yamatopress.com/c/1/1/2722/

この記事において、記者は有田氏の陣営と、自民党から出馬した安井じゅんいちろう候補、そして社民党から出馬した保坂のぶと候補の陣営を比較している。記者は東京都の選管から、

「スタッフと一般の方とを識別する目的で色をそろえる程度はよいとされています。選挙運動用にそろえて作ったもの、候補者や候補者を連想させるようなものは違反となります」

とのコメントを得ている(さっきと話が違ってるなあ……まあでも原理主義的解釈と、運用における解釈ということならこういうコメントになることがないとも限らないかな)が、安井候補と保坂候補の陣営では無地のシャツで色を揃えるに留めている。これに対して有田候補の陣営では揃いのキャッチフレーズの入ったシャツを着ている。キャッチフレーズというのは、先の「原理主義的」な東京都選挙管理委員会の見解から見るとアウト、ということになるはずだが、公職選挙法違反にならないのか、と質問した記者に有田陣営と有田候補本人がかなりぞんざいな応対をしているのを動画に記録されてしまっている。あーあ。底が浅いのが見えちゃいましたね、有田さん。

まあ、いずれにしても、蓮舫陣営の揃いのシャツに入っていた蓮舫議員のシルエットと「SHIWAKE 2010」のロゴ、これは:

何人も、選挙運動の期間中は、著述、演芸等の広告その他いかなる名義をもつてするを問わず、第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為として、公職の候補者の氏名若しくはシンボル・マーク、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない。
にバッチリ該当するのは自明であろう。蓮舫さん、これはどう説明するんですかね?

『きっと言える』に関して

昨日公開した『きっと言える』に関して。

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』に関しては、前に書いたけれど、特に思い入れがあるわけではない。というか、ライトノベルというものに関してそもそも懐疑的なので(さも新しいものみたいに言われるけどさ、「集英社コバルト文庫」みたいな土俵はそれこそ30年位前から存在してるわけだし)、その周辺で狂喜乱舞する人々を見ていても、正直、気味が悪い。

というわけで、自分のための楽曲制作に集中しようと思っていたのだけど、まああと1曲位応募しておいてもいいだろう、と、考えを変えたのだった。『すこしあるこう』は、80年代の歌謡曲みたいな曲調で書いたわけだけど、普段僕が演らない作風……渋谷系の流れ……で1曲書こう、と思った理由は、実はカジヒデキである。

僕はつい最近まで知らなかったのだけど、漫画の『デトロイト・メタル・シティ』が映画化されたときに、主人公の根岸崇一――気弱な青年で、ポップでオシャレな曲を歌うべくレコード会社と契約したのに、なぜかメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」の Vo. & Gt. "ヨハネ・クラウザーII世" として売りだされてしまう――が歌っている「ポップでオシャレな曲」として、カジヒデキが『甘い恋人』を提供していたのだった。


カジヒデキという人は、もともとロリポップ・ソニックというバンドに強い影響を受けて世に出た人である。ロリポップ・ソニックというのは後のフリッパーズ・ギターだけど、このロリポップ・ソニック自体がレッドカーテンというバンドの影響を強く受けている……レッドカーテンというのは、後のオリジナル・ラブである……。まあそんな出自で、ある意味今では最も「渋谷系」の色を濃く残しているのがカジヒデキだ、と言っていいと思う。

前に何度か書いたことがあるかもしれないけれど、僕は渋谷系というのが大嫌いである。オリジナル・ラブは例外的によく聴くのだけど、剽窃とヘタウマで理論武装した「渋谷系」というのは大嫌いである。高校時代に同世代の誰も知らないはっぴいえんどとか The Beach Boys を愛好していて、大学に入った途端に渋谷系ブームがやってきて、曽我部恵一のサニー・デイ・サービスのファンに生煮えなはっぴいえんど論を語られたり、フリッパーズ・ギター愛好者に Pet Sounds を語られたりしたときの不快感が、今でもフラッシュバックするのだ。聴く方までヘタウマで、おまけに消費することを以て自己主張するんだからたちが悪いったらない話で、だから僕は渋谷系が大嫌いなのだ。

だから、フリッパーズ・ギターや、件のカジヒデキみたいな作風を、今まで僕は意図的に避けてきたのだが、じゃあもし僕がそういう方法論で曲を作ったらどうなるだろう……という発想で書いたのが、この『きっと言える』である。

本当は、この手のギターポップというのは、もっともっとギターを重ねて作るものなのだけど、今回は自分のための曲ではないので、オーソドックスなギター2本のアレンジでいくことにした。ドラムは(僕は普段は「人間の叩けないフレーズ」を避けるのだけど)普段自分では絶対に使わないパターンを使い、なおかつループのように同じパターンを使い倒した。ベースは、本当なら自分の手弾きにするところなのだけど、メインで使っているジャズベの調子が最近悪いので、今回はシンセベースで組んだ。エレピっぽく聞こえている鍵盤は、実はアナログシンセで組んだ分厚いパッドである。

「おしゃれ」なアレンジ、というとフルートに走ってしまうのは、どうも即物的な気がするのだけど、今回は王道の「フルート + Glockenspiel(いわゆる鉄琴である)」でいくことにした。サンプリングされたフルートをそれっぽく聞けるようにするには、奏法的にはグリスをうまく使うこと、録音ではディレイをうまくつかうことが定石(最近は音楽作ってる人でこんなことも知らない人が実に多いらしい……昔の音楽をもっと聞いていればすぐ分かることなのだけど)なのだけど、今回僕がどうやったか、は秘密である(そんなに簡単にノウハウ公開するわけがない)。

ギターはとにかく簡単に録っている。左のギターはストラトを BOSS OD-1 に通して録ったもの、右はテレキャスを BOSS CE-3 に通して録ったものである。ギターポップ的には、更に2、3本、アコギも含めてオーバーダブするところなのだけど、今回はデモなので、そこまではしていない。ソロのギター(これも BOSS OD-1 を通したストラトである)をオーバーダブした位であろうか。

トラックダウンに関しては、唯一渋谷系っぽくない感じにしてある。このミックスは、前回の『すこしあるこう』と同じく、プレートエコーをかなり厚くかけて、深い音像になるようにしてある。

オケができて、メロディーも作って……さて、問題になるのは詞である。アニメソングの詞を真似ても仕方ないし、カジヒデキの詞を真似る気にもなれない。アニメを観る年齢層に合わせる、と言ってもなあ……などとうだうだやっていると、何時まで経っても書けないので、とりあえず書き始めたのだけれど、そもそも自分のために書いていない曲に詞を書くのは非常に苦痛である。こういうときの詞は大抵暗い世界になるものなのだが……案の定、暗い世界になってしまった。困ったなあ。しかもこの曲、女性が歌うようにキーを設定してあるので、詞とキーとが相俟って歌いづらいことこの上ない。なんだか、要らぬ苦痛を味わってしまったのだった。

まあ、そんな感じで書いた曲ではあるが、現時点でたったひとつついているコメントが「おしゃれ」というもの。うーむ。そうなのかなあ。どうなんでしょうね。

きっと言える

(投稿コメント)

二作目です。いきなりですがすみません。普段の自分の作風と全く違うので曲は書けても詞が書けず(って書きましたけど)、しかもキーが合ってない(もっと上かもっと下だといいんですが)ので歌が生煮えなことこの上ないですorz。どなたか曲調に合った詞なんか書いていただけませんか?

ノッテケノッテケ

最近、ホンダの CM で、波にのせてクルマの絵を出してきて、マスコットキャラクターが1車種出てくるたびに「のってけのってけ」と言う……というのが流れているのだけど、

「うーん、これ見て分かる人って今はどれくらいいるんだろうか」

などと要らぬ心配をしてしまう。

昔、いわゆるサーフィン&ホットロッドブームというのがあった。もともとは instrumental のバンドがその主流を占めていたのだが、Jan & Dean などが先駆けとなって、やがてはあの The Beach Boys などが登場する、アメリカ西海岸の一大音楽ブームである。しかしながら、このブームの中で登場した数々のバンドは、実はアメリカでは言うほど「売れて」はいない。The Beach Boys なんかは例外中の例外で、あの "Misirlou"(The Beach Boys はデビューアルバムの ”Surfin' USA" でこの曲をカヴァーしている)で有名な Dick Dale も(いや、彼は Capitol と契約してたんだからまだ売れてる方なんだけど)全米規模でいうとそれほどの大ヒットに恵まれたわけではない。彼の "Let's Go Trippin'"(これも The Beach Boys が頻繁にカヴァーしていた曲である)が全米チャートでは60位というから、やはり西海岸の局地的ブームというべきなのだと思う。

さて、そんなアメリカ西海岸シーンの中、1963年に結成された The Astronauts というグループがあった。アメリカでは実はあまり成功していないバンドなのだけど、日本では(どういうわけか)かなりの人気があった、らしい。もちろん日本のエレキブームがその背景にあったわけだけど、先の Dick Dale が確立した「スプリング・リバーブを深くかけたリードギター」を、これでもか、とばかりに前面に押し出したサウンドが、おそらくは日本での人気の理由なのだろうと思う。

大分前置きが長くなってしまったが、その The Astronauts の "Movin'"(邦題『太陽の彼方に』)という曲をご一聴いただきたい:

この曲が、日本のエレキブームに乗っかって(アメリカではヒットチャートにも乗っていないのに)局地的なヒットになった。この時代、アメリカのヒット曲は日本人がカヴァーして人に知られるようになる、というパターンが多かったわけだけど、この曲もその例外ではない。1964年に寺内タケシとブルージーンズ(『エレキの若大将』でご存知の方もおられるかもしれない)の演奏、タカオ・カンベ(この人は東映の大部屋俳優だったらしいが、この時代の欧米の楽曲の訳詞……といっても漣健児と同じで超訳だけど……を数多く残している)の詞、そして藤本好一の唄でカヴァーされている。

これが、先の「のってけのってけ」のルーツである。この8年後にゴールデンハーフ(全員ハーフ……本当は一人日本人が混じっていたんだけど……のガールグループで、スリー・キャッツの『黄色いサクランボ』のカヴァーで有名)もこの曲を再カヴァーしているのだが、こちらの方でご存知の方もおられるかもしれない(今回聴き返して、ファズ・ギターの音がいいのでちょっとびっくり)。

いずれにしても、僕より下の世代でこの辺の曲のことを知っている人なんて、果たしてどのくらい存在するのか疑問だし、知らない人もきっと何の疑問も持たずに聞き流しているんだろうなあ……などと思うと、ちょっと哀しくなってしまう。引っかかったら、まあ「ググれカス」とまでは言わないけど、ちょっとは調べてみましょうよ。ちょっとだけ豊かになれるんだから。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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