朝、目が覚めると

テレビが映らなくなっていた。昨日の話である。

土曜の深夜、タモリ倶楽部(レコーディングエンジニアとしてあまりに有名なかの内沼映二氏が出演して、ミックスダウンに関する短いが非常に実践的な話を聞くことができた)を観ていたときには何ともなかったのだが、朝起きると、どのチャンネルもアウトである。うーん……

うちの機材のトラブルを疑ったが、結局どれもシロだった。ということはアンテナか……昼近くに、屋根に登る音が聞こえたので、あーやっぱりアンテナだったか、と得心したのだが、しかしやはり根本的に納得できない。なぜって、今住んでいる集合住宅の大家は電気屋なのだ。おそらくは連日の猛暑で、屋根か何処かの金属部が膨張したのか、樹脂の部分が劣化したのか、いずれにしても、アンテナの施工がちゃんとしていたら、こんなことが起こるはずがないのだ。日曜の未明に突風が吹いていたわけでもないというのに。

僕はアマチュア無線をやっていたから、無線のアンテナ施工は当然だけど自分でやっていた。アマチュアは助け合いで成立しているので、前の職場の上司が別荘に建てたタワーの上で、命綱をつけて施工したりしたこともある。それに比べたら、テレビアンテナの施工なんてかわいいもので、ちゃんとステーを張っていさえすればそんな変なことは起こらないはずなのだ。しかし、高いところから世間の屋根のアンテナを見てみると、ステーを張る上での定石(ステーを別のステーで引っ張っても意味がない、とか、ステーはできるだけ2箇所でとるべきだとか)を守っているアンテナは、見つけることが難しい程に少ない。

集合住宅だと自分で施工できないから、こんなことになるわけだ。あー嫌だ嫌だ。今やテレビもライフラインのひとつなのにさ。

で、昨日2時間ほどごそごそやっていた業者は、うちのポストに「今日中の復旧が不可能と判断したので後日対処します」という紙を放り込んで行っただけ。今朝もテレビは映らないままだった。

【後記】アンテナはその後復旧したのだが、外から見ると、飴のようにぐんにゃり曲がったマストをそのまま使っている……よくあんな仕事しててプロだとか言えるよなあ。

『愛のテーマ』 ("Love's Theme" by Barry White's Love Unlimited Orchestra, 1973)

昔あれだけ聴いた曲なのに、誰の何というタイトルなのかが分からない……ということはちょくちょくあるものだ。僕も何度かその悩みに動かされて音源を探してきた。

最近は便利な時代になったもので、メロディを符号化して類似性を検討するタイプの「メロディ検索エンジン」なるものがいくつか公開されている。それらの中で僕が使うことがあるのはMusipediaなのだが、今日は昨日に引き続き、暑い夏を少しでも過ごしやすくするための(以前、最初にこの Musipedia を使ってみたときにタイトルを特定できた)曲を下に引用する。

この曲は、キャセイパシフィック航空がイメージソングとして使っていたために、子供の頃から日常的に耳にしていたのだが、今ちょっと調べていてびっくりしたことがある。

皆さんは、このようなインストゥルメンタルのダンスチューンというと、おそらく Van McCoy & the Soul City Symphony の "The Hustle" を連想されるのではないかと思う。

この "The Hustle" がビルボードでトップチャートを記録したのは1975年の夏のことである。しかし先の "Love's Theme" は、実はその前年、1974年の初頭にビルボードでトップになっているのだった。ちなみにインストゥルメンタルの曲がビルボードでトップを取る、というのはかなり珍しいことらしい。

そうだよなあ……実際、こういう曲が僕の音楽的原体験なんだろうと思う。テレビやラジオが歌謡曲漬けになっていたとはいえ、探せばまだ The Beatles のアニメとか、今回引用したような曲とか、ふつーに聴くことができたし、実際探して聴いていたわけだし。その体験は、勿論今の僕の嗜好にも色濃く反映されているんだろうと思う。

『夏なんです』

僕がなぜニコニコ動画で音楽公開をしているのか、というと、まさに今回のようなケースのためである。つまり、誰かの曲をカバーしたいときのため、なのだけど、おそらく理由をここで説明しなければならないだろう。

ニコニコ動画では、他人の著作物を用いて二次的に何かを作って、公開するユーザが多い。だから著作権の問題が以前から指摘されていた。かつて、ニコニコ動画では、YouTube 経由で動画を配信することで、運営会社であるニワンゴが著作権問題をかぶることを回避していたことがあったのだけど、これのせいで YouTube のサーバのトラフィックが異常に増えたために、ニコニコ動画は YouTube から締め出しを食ってしまったのだった。

自前で何とかしなければならなくなったニワンゴは、最終兵器とも言える措置を下した……もし、ニコニコ動画上のコンテンツが他者の著作権(ただし原版著作権ではなく、楽曲著作権の方だけだが)に関わるものである場合、ニコニコ動画がそのコンテンツの著作権に関する問題を処理してくれるのである。これを足がかりにして、ニコニコ動画は有料コンテンツを含む著作権の絡んだ動画・ファイル配信を本格的にビジネスにすることができたわけだけど、これは僕のような零細ミュージシャンがカヴァーをするときに非常に有り難い仕組みである。

というわけで、夏の暑さに耐えかねた僕が、こんな風に『夏なんです」をカヴァーしても、ニコニコ動画で公開すれば、著作権絡みの問題もなく、とにかく便利なのである……

しがらみのない強さなのか

池上彰氏は、NHK の『週刊こどもニュース』に出ていた頃にその存在を初めて意識した。思い返してみると、新宿西口バス放火事件や、日航機墜落事故のときに、ブラウン管(そう、当時はまだブラウン管だった)でお目にかかっていたはずなのだが、子供相手でも手抜きしないその解説に感心させられたのを鮮明に覚えている。

NHK の一番の失敗は、彼を解説委員室付にしなかったことだろうと思う。2005年に NHK を辞職してから、フリージャーナリストとして活動してきた池上氏は、この1、2年で大きくブレイクした。NHK 専属でニュースを解説してもらえるなら、こんな安い投資はなかったと思うのだが……まあ、とにかく、現在の池上氏はフリーの「ニュース解説人」とでも言うべきスタンスである。

先日、宮崎の口蹄疫問題を解説していたとき、池上氏は大きなミスを犯した。ブランド牛の産地で宮崎産の仔牛を肥育しているところを挙げるときに、神戸牛と但馬牛をその中に入れてしまったのだ(神戸牛と但馬牛は、同じ兵庫県の三田産の仔牛を中心として、専ら県内産の仔牛を肥育する)。これに関してリンク先のサイトではかなりきつい記事を書いているけれど、まあこれは難しいところだろう。僕は関西に10数年住んでいたから知っていたけれど……これに関しては、次の週の同じ番組で訂正とお詫びを入れていたが、これで池上氏は評価を下げてしまうのか、と、僕は密かに心配していたのだ。

しかし、だ。池上氏はやってくれた。先日の参院選の選挙速報番組で、他のどのメディアも斬り込まない部分に見事に斬り込んでくれたのだ。以下に動画サイトで公開されている該当部分を示す:

上リンク先の動画で、特に注目していただきたいのは3箇所である。まず、0:52〜の、谷亮子候補へのインタビューをご覧いただきたいが、このインタビューで池上氏は、

「……ということはつまり、国会の開会と柔道の大会がもし重なるようなことがあれば、これは国会を優先するということですか?」

と(おそらく皆が一番谷氏にぶつけたいと思っているであろうことを)質問し、

「当然そうです、はい!」

という回答を引き出しているのだ。これで谷氏はもう逃げが利かなくなった。高揚しているときにこの質問をあえて、それも民主党と小沢元幹事長が鳴り物入りで擁立した「最強のタレント候補」にぶつける、というのは、おそらく他のメディアでは腰が引けて無理であったろう。

次に注目していただきたいのは、4:26〜の蓮舫候補へのインタビューである。このインタビューでは、

「……『一番じゃなきゃダメなんですか?』という、あの発言が、結局、自民党が『一番じゃなきゃダメなんです』『一番、一番!』という、自民党のスローガンの『一番』に取られてしまいましたねえ」

と(おそらく皆が一番蓮舫氏にぶつけたいと思っているであろうことを)質問し、

「……あの、他党のことはよくわかりません」

という回答を引き出しているのだ。実は、蓮舫氏はよくこのような回答をする……これは、自分にとって都合の悪い質問をされたときの彼女の常套句なのだ。選挙戦が迫った6月17日、蓮舫氏はあの有名な「一番じゃなきゃダメなんですか?」などなかったかのような顔で、しれっとこんなコメントをしている:

「科学技術の分野でもほかの分野でも(日本が世界で)1番を目指すのは当然だと思っている」
(2010年6月17日20時01分付 YOMIURI ONLINE)

自分の言った言葉には、最後まで責任を果たさなければならないのが、政治家として当然求められるべき態度である。それをいい加減にし続けていることを、この池上氏の質問とその回答、そしてそのときの蓮舫氏の振る舞いは実に鮮やかに露呈してくれた。

とどめは、4:45〜の、公明党の山口代表にぶつけた、この質問である。

「……これはあの、特に、公明党の支持団体の創価学会がですねえ、管さんや、あるいは仙石官房長官のことを、大変に嫌っているから、えー、だから民主党と組むことは有り得ない、と、こう言う人もいますが、その点どうですか?」

……いやあ、ここまで斬り込む場面を、今のテレビで目にすることができるとは思わなかった。いつぞやの桂ざこば氏を超える快挙である。山口代表は、

「そういうことは全くないと思います。支持団体と、我々政党は、政教分離で、別な考え方で対応いたしますので。我々は政治サイドとして、こういう、今申し上げたような考えを持っている、ということであります」

と回答しているが、このときスタジオが一瞬静まりかえったように聞こえるのは、僕の気のせいだろうか。もっとも、この山口代表の態度は、先の蓮舫氏のそれなどとは比較にならない程にきっちりしたものだったけれど。そう、政治家の発言というのは本来こうあるべきものなのだ(まあ、公明党が優等生回答をした、と言う向きもあるだろうけれどね)。

ひょっとしたら、池上氏が TXN(テレビ東京系列……新聞社でいうと日経の系列である)で番組出演をしたのは、こういう鋭い切り口を示したかったからなのかもしれない。僕も、少しは期待していたけれど、ここまで池上氏が鋭く斬り込むとは思っていなかった。ジャーナリストの矜持を示した、というところなのだろうか。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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