年越しの準備

いくら僕でも年越しの準備位はする。僕は神道ではないので、家を掃除するとか門松を飾るとかいうことには縁が無いのだけど、まぁ一人でも少しは楽しめるように、ちょこちょこと作業をするわけである。

今朝は、年越しそばの準備をしていなかったことを思い出して、汁を作っていた。市販の汁が嫌いな僕としては、そばを家で食べる以上、これ位のことはしなければならぬ。

醤油……今回は和歌山の湯浅醤油を使用……100 cc にみりんを大匙2、砂糖……今回はきび糖を使ったが、あればざらめを使うことをお薦めする……を大匙2強加えて、よくかき混ぜながら火に当てて、沸騰直前で止める。これをゆっくり冷ませば(やぶなんかだと一週間以上熟成させるそうだけど)いわゆる「かえし」ができる。ここに、強火で煮立ててとったかつおだし(できれば分厚く削った鰹節を「え、もったいない!」と思うくらい使うと言うことはない)を、かえし:だし = 1 : 3 の割合で加えて、そのままビンにつめて出来上がり。今夜食べるのに、即席で作る分には間に合う(いや、寝かせる時間を確保すればこのままのレシピで店でも出せるのだけど)。

そばは乾麺の十割を毎年使っている。有名で人がおしかける蕎麦屋に限って、持ち帰りのそばは手抜きがちになるし、そもそもそういう意味で愛知県の店自体が信用できないので、僕は決して愛知県では生そばは買わない。まぁこんなことを書いているとグルメかとか言われそうだけど、金がそんなにかかるわけでもないし、皆さんにもぜひこのような年越しそばをお薦めしたい。

ある人格障害者とヘタレ教会の記録(まとめ・後日譚)

以前、fugenji.org の復旧前に書いたのだけど、去年のクリスマスから今年のイースターにかけてあったことをまとめた文書がある。その名も『ある人格障害者とヘタレ教会の記録』:

というものなのだが、これに関して続報が入った。本当に嫌な話なのだけど、こんな話を抱えてクリスマスを迎えるのも嫌だし、今年のクリスマスにも上のリンク先で書いたような騒ぎが起きない保証がないので、ここに後日譚を書き添えておくことにしよう。

上の文書で登場する問題人物 Q だが、教会でボランティアに関わっている A 女史がわざわざ大阪の修道院に紹介して、そこで暮らすようになった。この A 女史は、Q の問題を全く理解しようとせず(理解していなかったとは言えないだろう……正確に言うなら、すぐそこにあった事物を観て見ぬふりをしていたのだから)、Q のシンパ(信じがたいことだが、教会に今でもこういうシンパが複数存在する……彼らは Q の「U に『塩酸を浴びせるぞ』と脅された」という言葉を何の疑いも無く頭から信じ込んでいるらしい)の一員として Q をこの修道院に紹介したのだ。

で、数日前のことだが、U のところに A 女史から電話がかかってきた。U は、自らに対する誹謗中傷に対しても「私の評価は私の行動でなされるのだから、臆するところは何もない」と無視を決め込んでいたので、A 女史の電話にも普通どおりに応対したのだそうだが、A 女史は、言いにくそうに U への謝罪を口にしたのだという。

「ごめんなさい…… U さんの言うとおりだった」

まぁ今更何をどう言っても仕方の無いことだろう、と U はクールに応対したのだそうだが、A 女史の話によると、前述の大阪の修道院は、西成の人達に炊き出しをしているのだという。で、いつものように炊き出しに出かけようとして、ニューカマーの Q に声をかけたところ、

「私は炊き出しをするために来たのではない」

と言って拒絶したのだ、という。何言ってるの、皆でこういうことをやっているのは分かるでしょう、とシスター達が言うのに、Q はこう反論したのだそうだ:

「私は名古屋教区で一番レベルの高い教育を受けた。名古屋の某 NPO 法人の理事のオファーがあったのを蹴ってここに来ているんだ」

これ式で、炊き出し(これはこの修道院にいる以上はしなければならない「仕事」なのだが)も、何か勉強会にでも参加したらどうか、というアドバイスも、すべて拒絶したのだという。修道院では、ただいるだけで何もしない Q を持て余し、早々にお引き取り願ったのだ、という。この話を U から聞き、僕は絶句しそうになるのを何とか言葉を連ねて U に聞いた。

「……しかし、それでは Q は今どうしているわけ?」
「結局、その修道院を追い出されて、今はお好み焼き屋さんでバイトしているらしいよ」

しかし、そのお好み焼き屋さんも苦慮していることだろう。U に A 女史はこう言ったのだという。

「あの子(Q)ね、雑巾を絞ることもできないのよ……」

まあそりゃそうだろう。何せ第一次反抗期の辺りで止まっているんだから。A 女史は U にこう言ったのだという。

「私、あなた(U)がお手紙下さったとき、Q さんのことを知りもしないでこんなにひどく書いて、これでは名誉毀損なんじゃないか、と思っていました。けれど、本当に何も知らなかったのは私の方でした。あなたが『こんな危険がある』と書いていたこと、今は自分の危機として感じています。本当に申し訳ありませんでした。嫌な思いをさせました。ごめんなさい」

U は「私と同じめに遭わないと分からないと思っていましたし、とにかく今後はご注意下さいますよう」と応じたのだという。まあ、僕にしても U にしても、Q に関しては、もう正直係わり合いたくない、と思っているので、こちらが何かしてあげることもできないし、そもそもする義理もないのである。

今夜、僕と U は教会に行くわけだけど、今夜辺り、もしかしたら教会に Q が姿を現わしやしないか、という話をしている。まぁ、今度はもう、あの人格障害者の思うようにはならないだろうし、何かすれば何かしただけ、Q が世界に感じている痛みは増すばかりなのだけど。つくづく、受洗しようが受堅しようが、救われないものは救われないものであるし、この言葉に当事者やその周辺の人々がもし反感を感じるならば、問われるべきは「そんな洗礼に、そんな堅信に誰がした」のか、ということなのだ。どこに罪があるかって、そもそもそこにあるわけだし、その罪を犯した人々は未だにその罪を悔いていない…… A 女史は尻に火がついてようやく少しは分かったようだけど……のだから。

簡単なカレーを作る

今は簡単なカレーを煮ているところ。じゃあ簡単じゃないカレーというのがあるのか、と言われそうだけど、こんなのがある。今日はこれよりは大分簡単だ。

まず、みじん切りにした玉ねぎをオリーブオイルで炒めて、しょうがを摩り下ろしたものを加えてから、豚肉を加えて火が通るまで炒める。そこにじゃがいもと人参を加えてさっと全体をなじませて、ホールトマトとひたひたの水、ベイリーフとブイヨン(マギーが出している化学調味料の入っていないものを使っている)を入れて一煮立ちさせる。胡椒とカルダモン、トマトの酸味を和らげるための牛乳を加えて一時間煮込んで、カレー粉を加えて10分ほど煮込んでから塩で味を整えて出来上がり。簡単である。

今日はじゃがいもも人参も大きめに切ったけれど、細かく切って、肉に鳥(軍鶏とか、ある程度歳をとった固めの鶏がよろしい)のひき肉を使ってあっさりとしたキーマカレーのように仕上げても美味しいだろう。まぁカレーなんてのは、作り方に無限のバリエーションがあるし、そもそもルールなんてない(大体インドではカレーという特定の料理は存在しないのだし)のだから、皆さんお好きなように作られればよろしい。

半可通がニュースを評するのは暴力的である

片山右京氏らが富士山での訓練中に遭難し、片山氏の同行者二名が凍死するという事故が発生した。状況を聞いた限りでは、出来ることは全てやった上での突風による事故でもあり、一人残された者として出来ることの限界を超えたところでの惨事だと思われる。しかし、ネット上では、何も山に関して知らない輩が氏を罵倒する記述が散見される。

僕の郷里にある運動具店の店主で、服部満彦という方がおられる。芳野満彦と言った方が分かり易いだろうか。高校二年生のときに冬の八ヶ岳で遭難し、同行していた先輩を失い、自らも両足先の前半分を失ったが、一年のリハビリの後に復学、後にマッターホルン北壁を世界で始めて登頂するなど、戦後の日本の登山家として数々の国際的な登攀を成し遂げた人物である。新田次郎の『栄光の岩壁』の主人公はこの芳野氏がモデルであるし、同じく新田氏の『アイガー北壁』においては、芳野氏は実名で登場している。

僕は子供の頃、この芳野氏のファンで、親父の書棚にあった芳野氏の著書『山靴の音』をしゃぶり尽くすように読んだものだが、芳野氏は、低体温症で徐々に命を失っていく先輩の様子をこの本の中で克明に描写している。このような体験をし、自らも傷ついて、それでもなお、部屋にザイルを張り、足先を血で濡らしながらも歩く訓練をし、そして山靴の中が血でぬるつくような状態でも山に登ったのは、何故だろうか。芳野氏は「とにかく山に登りたかった。ただただ、それだけだった」と証言されているが、つまりは山とはそういうものなのだ。そこに、麓でぬくぬくとしている連中が、自らの安全を謳歌しながら何事か言ったところで、そんな言葉は意味を持たない。ただただ、半可通がニュースを評するのは、暴力的である、ただそれだけなのだ。

人品卑しからざるか否か

先日、S と教会の話をしていたときに、そう言えば僕達は人間崇拝というのには縁がないな、という話になった。

「司教が来られているときに、『司教様、司教様ぁ〜っ!』とか言って追いかけまわしているオバサン連中、あれは何とかならないのかねぇ」
「そうだねぇ……まぁ、あの人達はきっと神様以外の何かを信じているんだろうな」

などとキツい話を平気でしていたのだが……この手の輩は哀しいことにどこの教会に行っても見かけるのだ。そんな連中が、その舌の根も乾かぬうちに、ファリサイ人がどうのこうの、などと言うのだから、全く以てお話にならない。上にも書いたけれど、神以外の(神と自分の間にある)存在を神と勘違いし、無闇矢鱈に持ち上げて、その権威の代執行者を気取ろうとする輩は、見るにつけ本当に浅ましく思うものだ。

この手の輩は、ある領域において高く評価される存在が、一般的に高くある存在なのだと、半ば確信犯的に誤解している。そうしておけば、水戸黄門の印籠の如く、8時45分に周囲を平伏させて自分が胸を張れる、と思っているからに違いあるまい(つくづく下らんな)。ところがどっこい、その反例なんてのは歴史を顧みれば枚挙に暇がないのである。

ざっと思い返して思い当たるのを書いていくと……そうだな……ショックレーという科学者がいた。彼はベル研で世界で初めてトランジスタを発明して、その業績でノーベル物理学賞を受けたことで有名だけど、電子工学者としての彼に高い評価を向ける人がたくさん居たとしても、人間としての彼に同じ評価を向ける人がもしもいたならば、溜息をつかれるか笑われるかのどちらかだろう。ショックレーは白人至上主義者として有名で、あの IEEE Trans. に「遺伝学的に白人が有色人種より優れている」という内容の論文を投稿した(というか、掲載させようとした、というか)位なのだ。それだけではない。アメリカにはノーベル賞受賞者等の精子を扱う精子バンクがあることが知られているが、これを作るのに尽力したのはこのショックレーである。

コンピュータの世界に関わりのある人、ということならば、フォン・ノイマンを挙げるのがいいだろう。彼は紛れもない天才だった。彼は人間の脳の記憶容量を算定したことで知られているけれど、その容量は、現在世間で受け入れられている値より大きい。何故かと言うと、彼は「人は決して覚えたことを忘れない」という前提で脳の記憶容量を計算したからだ。どうしてか、って?彼がそうだったから、だよ。

それ程の才能で知られ、爆縮型原子爆弾のいわゆる「爆縮レンズ」の設計者としても知られるフォン・ノイマンだが、その振舞いは決して他者の尊敬を受けるものではなかった。彼の研究室での一日は、秘書の尻を触ることから始まった、というのは有名な話だし、自分より能力が低いと見做した存在には徹底的に悪口雑言の限りを尽くした。そんな彼が骨肉腫の脳転移で簡単な四則演算もできなくなり、今迄信じてきた己が能力が崩壊したことの恐怖に苛まれながら死んでいったのは、皮肉としか言いようがないのだけど、彼はそういう人だった。

世間でナイスガイだと知られている人だって、違う一面を持つことがある。あのリチャード・ファインマンは、その魅力溢れるキャラクターで未だに愛されているけれど、彼が二番目の妻と結婚するまでの間、共同研究者や後輩達の妻や恋人を寝取っていたのは、知っている人なら誰でも知っている。死せる存在を貶めることが無意味だから、こんな話は彼の伝記にこっそり書かれているだけだけど、事実なのは間違いない。

池波正太郎の言葉は、こういう多面的な人間を受容する上で大きな助けになるだろう:「人は清濁併せ持つものなのだ」。濁った部分だけで人を断ずるのは、池波の言葉を借りるなら「味ない」行為だろう。しかし、人は決して清いだけの存在ではない。都合のいい部分を、水戸黄門の印籠のように振りかざす馬鹿共は、きっとそんなことを考えもしないのだろうけれど。

うちのサイトのアクセス記録を解析していたら、僕が加藤守雄氏の『我が師 折口信夫』について書いた日記にアクセスが入っていたのだけど、折口信夫も、やはり清濁併せ持つ人だった。『死者の書』などで知られた彼の史観、そして文学は、勿論高く評価されて然るべきものである。しかし、國學院の折口門下生だった加藤氏の体験は紛れもない事実で、それが折口の一面だったこともまた否定できない事実なのだ。人は清濁併せ持つ。これを認識できない人は、権威を持ち上げるか、一つの曇りで貶めるかのどちらかしかできないカタワモノなのだ。

またもや環境再構築

このところ不調だった Linux 環境に大鉈を振うことにして、さっくり環境の再構築を行った。どうも X のサーバ関連で Debian が何か動きがあるのか、サーバの一部が置換されてしまうと X が起動しない、というのに悩まされて、ついに荒技に出たというわけなのだが……いや、/home に復旧セットを作って再インストールを行うので特に何も問題は生じないのだけど、ただひとつ、Intel Compiler の復旧だけが面倒なのである。

何が面倒って、まずアーカイブがデカいこと。そして VTune を入れると daemon と module でちょこちょこやらなければならないこと(正直言って VTune はほとんど使わないので、いっそ消してしまった方がいいのだろうか)。まぁ、何十分かうだうだやって、作業は終了した。

今は復旧した shannon(Linux と Windows Vista Home Basic 64 bit のデュアルブート端末)の上でこれを書いているのだけど……来年度になったら、shannon もそろそろ更新の時期である。こんな作業でうだうだやっていても、あっと言う間に機種更新、だものなぁ。何か人生の無駄遣いをしているような気がしてきて、暗澹たる心地になるのであった。

世紀末のマスターピース

どんな日にも「今日の一曲」みたいなものがある。今日は、最初はめんたい系に行っていたのが、どういうわけかスガシカオに行ってしまい、今は『夕立ち』がヘビーローテーションになっている。

この曲が入っている "SWEET" は 1999 年にリリースされた。ちょうど10年前ということになるのだが、この曲の「救いようのない暗さ」は今になっても変わらず好きでいる。現実の中で生きていると、こういう「救いようのない暗さ」は、ひりっとしたリアリティがあって、実によろしい。昔の食通とかは、きっとふぐの肝の糠漬けなんかを舐めてみてはそんな感覚を追体験していたのかもしれないけれど。

Demo for Christmas

僕は曲を書くとき、メロディーを後回しにすることは少ない。メロディーと詞を並列して考えて、それにアレンジを施すということが普通なのだけど、今回はどうもメロディーが降りて来ないので、オケのラフスケッチを先に作ってしまった。先ほど、ほんの10分ほどでラフミックスをしたものを出しておくことにしよう:

20091210.mp3

このままだと某竹内まりやの某曲に似た部分があるので、フックは後で作り直す予定。まぁ第一段階のラフはこんな感じなんです。

あえて真剣にタイガー・ウッズ問題を考える

タイガー・ウッズのスキャンダルがとんでもないことになっている。彼と性交渉を持ったとされる女性の数が、一説によると13人確認された、という。スウェーデン出身の彼の妻は、ストックホルム近くに既に家を購入し、別居は時間の問題とまで言われている。

まあ、ここではモラル云々と書くつもりはない。トニー谷曰く「男の上半身は朝日新聞、下半身は内外タイムスでできている」……これは極端な話だが、家庭を持っていてもこのような過ちを犯す人は世の枚挙に暇がないし、犯した罪を今更責めるより、そこにおける彼の状態を是正することの方が大切であろう。そこで、ここでは彼の行状を少し冷静な目で観察し、考察してみよう。

まず、どうしてアメリカでこの問題がこれほどメディアで活発に報道されているのか……だが、これはアメリカという国における性への倫理観というものを知る必要がある。ほとんどの日本人は、アメリカが性に関してオープンな国だと考えているのだろうけれど、実際はこれは逆で、彼らの性のタブーは日本人のそれよりはるかに強い。えー嘘じゃん日本に持ち込めない雑誌とか売ってるんでしょ?と思われる方が多いのだろうけれど、確かにそういうものも売っている。ただし、それにアクセスできる年齢は厳しく制限されているし、それを不快と思う人の耳目にそれが入らないような配慮もなされている。たとえば、アメリカのテレビにはV-chipと呼ばれる半導体の搭載が義務付けられている。これは、テレビ番組の暴力や性に関する描写の程度を数値化した情報を受信し、一定以上の数値が付いた番組を聴取すると、暗証番号の入力なしには受信できない(一定時間間隔で画面表示がされないようになっているらしい)ようになっている。アメリカの性の文化は、日本の法規制よりゆるい部分もあるのだが、それは厳重にセグメントされた中に隔離されており、通常、一般市民が受動的にアクセスできないようにされているのである。

これはどうしてか、というと、アメリカ人の多くがプロテスタントであり、性のタブーがかなり強いためである。日本のように、濡れ場のある二時間ワイドがお茶の間に映ってしまうようなことがあったら(日本人でも気まずくなるだろうけど)、彼らは首を振りながら自室に閉じこもってしまうだろう……それ位、タブーの意識が強い。だからこそ、そのタブーを犯した者への関心もまた高いのである。

性的スキャンダル、というと、我々の記憶に残っているであろうものに、10年前のクリントン元大統領とホワイトハウス実習生モニカ・ルインスキーの不倫問題、というのがある。あのときはクリントンが州知事時代の女性部下にセクハラで訴えられていたために、訴訟の材料としてルインスキーとの関係を持ち出されるのを恐れたクリントンがルインスキーに偽証を依頼し、苦慮したルインスキーが友人に相談したことで事が露見し、あのような騒動になったのだが、あのとき日本であまり報道されなかった興味深い事実がある。性的に奔放な振る舞いをした、という世間の好奇の目の下にあったルインスキーに対し、アメリカの女性人権団体は庇護するのではなく、むしろ批判する側に回った、というのである。これも実は「アメリカのキリスト教」における思想が反映されている……女性の解放が進んだと思われているアメリカではあるが、実はアメリカ人のモラルにおいて、家庭を守る貞淑な女性、というものの評価は非常に高い。特に性的な面において貞淑を犯すことは、アメリカにおいては大きな批判の源になるのである。

これらから考えるに、今回のタイガー・ウッズの事件がこれほどまでに大きくアメリカのメディアを賑わわせるというのは、むしろ自然の成り行きだとも言える。別にアメリカ人が皆下種の勘繰りに精を出しているわけではなくて、この事件が彼らの性的モラルを強く刺激する結果として、このような事態を生むのである。

さて……では、今回の話題にのぼっている女性たちを顧みてみる……このような事件の背景を考えるとき、そこにその何かしらかが反映されていると考えるのが自然だからだ。年齢は……30代がほとんどだが、20代の女性も存在する。職業は……いわゆるサービス業が多いようだが、これはタイガーとの時間的接点のある女性、と考えれば容易に納得できる。そして(日本では何故か全く話題にのぼらないが)人種……黒人も白人も、そしてプエルトリカンのような中南米系の人と思しき人もいる。いや、何が言いたいかというと、「共通要素が『タイガーとの時間的接点』以外に見当たらない」のだ。あえて言えばロングヘアーの女性、ということ位だろうけれど、それも共通点としてはいまひとつ希薄である。

ここから先は僕の推測なのだが、今回の場合、「共通点があまり見当たらない」ことこそが実は重要なのではなかろうか。つまり、手を出せそうで引っかかりそうな女性に片っ端から手を出していったような印象を受けるのだ。そこに共通して彼が求めたものが何だったのか……それは、彼の満たされないものの「代償」だろう、と推測できる。何に対する「代償」なのか……換言すれば「彼は何に満たされない思いを感じていたのか」。それは可能性としては二つ、つまり、彼の夫人への感情か、もしくはゴルファーとしてのプレッシャーか、のいずれかであろう。

タイガーの夫人は前述のとおりスウェーデン出身である。様々な人種の混血として "Caucaneasian" であることを自ら誇るタイガーではあるが、彼はアメリカ西海岸で生まれ育った、つまり、アメリカ人として育った人である。その彼が、英語での会話に問題ないとはいえ北欧で生まれ育った夫人とのコミュニケーション、あるいは生活習慣のずれに対して様々なフラストレーションを抱えていた可能性は低くない。

ゴルファーとしてのプレッシャー、というのは、これは今更書くまでもないことだが、最近のタイガーの状況を考えると、去年に2度の膝の手術を行い、今年は3年ぶりの予選落ちも経験している。そのような状況のなかでも、勝つのが当たり前のように扱われ続け、その期待に応えるためにストイックな生活を自らに課さなければならないならない。これはやはり一人の人間にしては大きなプレッシャーになる。最近のタイガーは睡眠薬を常用しており、オーバードーズで病院に運ばれ、気管挿管まで行ったことがあったというから、やはりこの問題が彼の日常に少なからぬ影響を与えていたことは無視できない。

で、先の女性の共通点の話に戻るのだが……明瞭な共通点が見当たらない、ということから、僕はタイガーが性依存症なのではないか、と考えている。性依存症が、逃れがたいトラウマやプレッシャー、フラストレーションからの逃避として生じるのは、よく知られた事実である。性依存症というのは、未だに病として体系的に扱われているものではなく、その治療に関しても体系化されていない。ただし、先に書いたクリントンの事例においても、依存症全般を扱うスペシャリストが関わったりしているので、タイガーの場合も、そのようなスペシャリストの援助を得る必要があるのではなかろうか。勿論、それを受けたからといって、夫人の信頼・愛情を取り戻すのは容易ではないと思うのだが。

google 正規代理店???

今日は私用で自宅にいるのだが、ついさっき妙な電話がかかってきた。備忘録、という程のものでもないが、メモも兼ねて書き留めておくことにする。

「もしもし」
「どうも。こちら、google の正規代理店なのですが」

google の正規代理店?そんなものは聞いたことがないのだが……しかも、昼間にめったに人が出ることもないうちの電話に、何の用でかけてきたんだ?と思いつつも、とりあえず話を聞いてみることにしたのだが……

「あの、これは自宅の電話なのですがね」
「ああ、そうですか。失礼いたします……あの、そちらでネットに web サイトを開設されておられますね」
「はぁ」
「そちらのサイトのアクセス数を上げるためのご提案なのですが」
「あー、こちらでは営利目的のサイト運営はしていないんですが」

……とここまで言ったら「失礼しました」と電話を切られた。しかし、google の電話営業なんて聞いたことがないのだけど……と、その google で検索をかけてみたところ、adwords の電話営業を受けた、という話は、このところのネット業界では結構よく聞くものらしく、複数の blog などに同種の話があるのを確認した。確かに僕は google にアカウントを持っているし、アカウント取得の際に電話番号を登録してあるはずなので、ここにこうやって電話がかかって来る可能性がないわけではなかったのだけど、しかしあの google が電話営業をしているというのは、正直言って驚きである。そこまで景気が悪いということなのだろうか、などと考えてしまうのは僕だけだろうか。

小沢一郎の耐え難い軽さ

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091207-OYT1T01010.htm

以下、リンク切れ対策のために引用:

キリスト教「排他的」発言、小沢氏に申し入れ :

 日本キリスト教協議会の飯島信総幹事ら同教関係者は7日、民主党本部に小沢幹事長を訪ね、キリスト教を「排他的で独善的な宗教だ」と評した小沢氏の発言について、「キリスト教への理解が不十分」などとする申し入れ書を手渡した。

 飯島氏によると、小沢氏は「キリスト教が排他的ということではなく、仏教は融合的な宗教だと言いたかった」と釈明したという。

(2009年12月7日19時45分 読売新聞)

仏教が融合的な宗教だということを主張するために、どうして「キリスト教が排他的な宗教だ」と言わなければならないのか、その点に関して小沢氏は全く言及していない。要するに、このコメントは釈明にすらなっていないのだ。

そもそも、排他的というなら、(自ら仏教であると標榜している)公明党の支持団体であるところの創価学会に関して言及しないというのはあまりに不自然なんじゃなかろうか。まぁ何かしら関わりがあるんだろうなぁ、と勘ぐりたくもなるというものだ。

この発言を向けられた高野山派真言宗の関係者も、考えてみれば被害者のようなものだ。我々が管理・運営しているこの FUGENJI.ORG も、オーナーは高野山派真言宗の町寺で、管理をしているのはカトリックの僕なのだけど、考えてみれば、僕とオーナーOとの間に宗教的な問題などというものが生じたためしがない。お互いのスタンスがはっきりしていて、対話をすることができるので、互いに何かしら見識を広げることがあったとしても、互いに否定しあうなどということの必要性がそもそもない。今回のこの小沢発言に関しては、百害あって一利なし、としか言いようがないのだ。

dirty flag

ちょっと込み入ったことをやっていたら、久しぶりの blue screen …… Windows NT 系の OS は kernel が死んでしまうと青一色の画面が現れるのだが、それをこう言う……に出くわした。勿論 BIOS レベルまで落ちてしまい、再起動がかかるのだが…… boot 時に chkdsk を促すメッセージが出る。やばいなぁ。どうもファイルシステムに支障を来したらしい。

この boot 時に chkdsk を促す、というのは、autochk というユーティリティがディスクチェックを行った結果である。で、このようなメッセージは、基本的には chkdsk をかけてやらない限りは際限なく出続ける。これは、ファイルシステムに「このシステムはイカれてまっせ」ということを示す部位があって、その部位に「イカれた」チェックが入ったためである。これを dirty flag というのだが、この flag が立つと厄介なことになる。

Microsoft Windows で用いられている NTFS をチェックするためには、Windows に付属している chkdsk を使うしかない。これが FAT の場合だと GNU のツールで直せるのだけど、NTFS の場合は、現時点では ntfsck というツールが開発中の状態で、まだ chkdsk 以外に選択肢がない。この chkdsk は通常ディスクを3つの段階に分けてチェック・修復するのだけど、今回のような dirty flag が立った場合、Windows のシステムが入ったパーティションの中身を改変することになるので、一度再起動し、最小限のシステムを RAM 上に展開したところでそのパーティションをマウントし直し、chkdsk を行った後、改めて再起動してパーティションをマウントしなおしてやらなければならない。

ところが、僕の使っているシステムでは、この再起動後の chkdsk がうまくかからない。どうしても cancelled というメッセージが出て、chkdsk が停止して立ち上がってしまうのだ。こういうときは、他のメディアから別のシステムを立ち上げて chkdsk をかける必要がある……で、久々に Windows Vista Home Basic 64 bit Edition の DVD を出してきて、そこから立ち上げてやる……と、これはうまくいった。さて。chkdsk をかけてやると……一見、あまり問題もなくチェックが終了したように見えたが、これではまずいんだな…… dirty flag が立ったときには、ディスクチェックを厳密に行うため、chkdsk が5段階のチェックを行う必要があるのだが、今回は3段階のチェックしかかからなかった。ということは……あー、これを明示的に入力するのは厭なんだけどなぁ、と思いつつ、chkdsk /R /F c:と入力する。

この5段階チェックは、運が悪いと丸一日位かかってしまう……恐る恐る見守っていると……はぁ、これならそう時間はかからなさそうだ。放置して他のことをやっていると……二時間かからずにチェックは終了した。DVD を抜いて再起動して、ディスクの掃除をして……復旧完了。NTFS は Linux で用いられているファイルシステムなどと比較しても、そう悪い出来ではない、といわれているのだけど、このディスクチェックで猛烈に時間を食ってしまうのは、なんとかならないのだろうか。本当に、これがあるから Windows 上で仕事をするのは厭なんだよなぁ……

N. I. 容疑者、この名前を

【2013/03 後記】ここには容疑者を実名で公開していたが、時間も経ち、この記述が名前の特定に使用される可能性を考え、名前に関しては伏せることとした。

皆さん、どうかご記憶願いたい。特定の個人の名前を blog に書くのは、僕にとってもきわめて異例のことなのだが、これに関しては、「WWW ページでの個人情報公開について考える」の作成者としては、どうしてもふれないわけにはいかない。僕の恐れていた、というよりも、予想をはるかに超えた事態が生じてしまったのだ。

先日、大阪地検特捜部は、千葉県松戸市にある I 容疑者の自宅に家宅捜索に入り、同容疑者を名誉毀損の疑いで逮捕した。そもそもこの罪状であの地検特捜部が動くということ自体、きわめて異例のことだと言わざるをえないのだが、I 容疑者がネットで何をしたのか、ちょっとでも垣間見ると、なぜそんなことになったのかがうかがえる。

これを知るには google を使うだけでいい。まずgoogle で検索を行った結果(後記:ここで本名が分かってしまうのでリンクを消しました)見ると、今日の時点で検索ヒット数が約 2,040 件あるが、最初にヒットするのが本人の web ページである。そこをご一読いただければ、まず I 容疑者が K. K. 氏なる人物に対して極めて粘着的な誹謗中傷を展開していることがお分かりだろう。他の検索結果をみていただくと、I 容疑者が自らのサイトのみならず、2ちゃんねるを初めとした各種掲示板にも同一内容の書き込みを複数回行っていることがわかる。一人の手によってここまで広範にある人物の誹謗中傷が行われたのは、僕が知る限り他にあまり例がない。しかも、誹謗中傷を行う者が、自らの氏名等を完全に公開して行った、などというのは前代未聞である。

TBS の報道によると、この K 氏、I 容疑者と同じ大学のサークルに所属していたらしい。……今から20年前のことだそうだが…… I 容疑者はそこで知り合ったとある女性に思いを寄せていて、告白し、拒絶された。その理由は、女性に既に交際する男性(この男性というのは K 氏ではない)がいたからだというのだが、どう逆恨みしたのか、I 容疑者は「K 氏が女性をレイプしたために女性が悲嘆に暮れ自分との交際を拒絶した」と信じ込んでしまったらしい。しかし実際には、K 氏はそもそもその女性と面識すらなく、この思い込みは完全に事実無根のものだったそうなのだが、この20年、I 容疑者は K 氏やその周辺(家族や知人、K 氏の仕事上の関係者まで)に自らの思い込みをしたためた書状を何度となく送りつけ、K 氏の公私を無茶苦茶にしてしまったらしい……そりゃ、いくら事実無根だといっても、婦女暴行を犯したなどとあちこちに書状を送られたら、これはたまらないだろう。K 氏は自らの経営する会社をたたまざるを得なくなり、公私共にずたずたにされたことから重いうつを患うことになる(現在も投薬療養中だとのことだ)。

昔、僕の知るある人物が blog 絡みで複数の人物を誹謗中傷したことがあって、誰だったか、「彼は不明な情熱にうかされているのだ」と書いていた人がいたのを思い出すけれど、いやはや、「不明な情熱」というのはまさにこういうのを指すとしか言いようがない。しかも、この不明な情熱が、ついにネットという(誹謗中傷においてきわめて有効な)凶器を使うところまで至ってしまったのには、無情という言葉以外思い浮かばない。

たちが悪いのが、この I 容疑者のネットによる誹謗中傷には協力者がいることだ。具体的には以下のリンク先をご参照いただきたい:

http://blogs.yahoo.co.jp/jinken110ban/12856727.html

このリンク先をみていただくとお分かりかと思うのだが、I 容疑者の協力者は、どうやら統合失調症もしくは極めてそれに類似したメンタルな問題を抱えていると思われる(「今、電磁波による生活妨害にあってます。」との記述あり)。しかし、その人物は他人の名義で「人権110番」なる web ページの運営を行っているので厄介なのだ……で、その人物が、自らが被害者だと強硬に主張する I 容疑者を助けよう、と、2006年7月13日(この人物の記述が正しければ、だが)に I 容疑者の web ページの立ち上げを行ったらしい。この人物の書いていることが正しいなら、I 容疑者はその時点でパソコンを使い始めて一月しか経ってない、とあるので、I 容疑者が web を舞台に誹謗中傷を行いだして3年と少し、ということになる。その間に、K 氏への誹謗中傷はさまざまなサイトにおいてなされ、蓄積・資源化されてしまったことになる。

しかも TBS の報道によると、被害者はこの K 氏だけではないらしい。他にも少なくとも女性が一人、同様のネット上での誹謗中傷の被害に遭っているという。そりゃ……これだけ大規模になれば、そりゃあ地検が動いたとしてもおかしくはあるまい。とにかく、あまりにひどい話で、正直どうコメントしたものか思い浮かばない。おまけに、何を考えているのか、I 容疑者は地検の検事の名前までネットに公開している。悪質さの程度があまりに図抜けていて、自分で書いていて、そのリアリティのなさ(しかしリアルな話である)にめまいがする。

この手の輩に個人情報を握られるとどうなるか……相手が何も失うものがない、というか、何を失ってもかまわないという態度で臨むと、ここまで出来てしまう、という実例ができてしまったことになる。皆さんも、どうか、このケースに関してはぜひ知っていただき、そして同様の騒ぎに巻き込まれることのないようご配慮願いたい。本当に、こんな風に、不明な情熱を以て誹謗中傷がなされるとは……

ゲームの世界には高校がないらしい

僕はゲームというものをすることがない。Windows にくっついてくるマインスイーパーとかも最初っから削ってしまう。そもそも1980年からコンピュータというものに触っている関係上、最初の段階でゲームというものには嫌と言うほど触っているわけで、そこで(条件分岐を含めた「仕様」に支配された)ゲームの内的世界が所詮は人間の創造物に過ぎず、その上でその世界の規則に拘束されて動くことがひどく滑稽に思えるようになってしまったのだ。だから、未だに家にはゲームの類が一切ない。

ただ、ゲームに熱中する人間、というものには若干の興味があるので、何とはなくゲーム販売サイトを覗いたりすることはあったりする。最近は、特にいわゆるエロゲーの人気ランキングなどを見るにつけ「あーこの国には潜在的なペドファイルとかルサンチマンを溢れんばかりに溜め込んだ人とかが増殖しているのかな」などと厭世的な気分になってしまうので、あまり見ないように努めているのだが、でもまあ月に一度くらいは覗いてみるわけだ。

で、最近、ちょっと気になることがあった。その手のゲームの設定などを見ていると、「学園」という言葉が頻繁に出てくるのだ。まあ「学園もの」といえば昔からドラマなどでも王道なので、「学園」という名称を目にしてもおかしくない、という方もおられるのだろうが、じゃあ「高校」という名詞はどうなのか、というと、これが全くといっていいほどに目にすることがない。

で、昨日、たまたまゲームをやっている知人とメールでやりとりすることがあったので、ついでに思い切って彼にこのことを尋ねてみた。返ってきた答を読むと、あーなるほど、と得心したわけなのだが……要するに、ゲームの中では「学園」を舞台として、そこの学生同士であんなことやこんなことがあったりする。しかしながら、それらの行為のほとんどが、高校において行われたら倫理的に……というか、法律的に問題がある行為ということになってしまう、というわけだ。たとえば、恋愛系のゲームで、若き鬱勃たるパトスに暴走する男女が、人気のない校内でエッサカホイサと怪しげな行為に精を出している……という描写があったり、タバコや酒を嗜んだりするシーンがあったりするわけだが、これは高校においてそういう行為を助長するものと捉えられてしまう、というのだ。まあ、確かにそうだろう。

「……まあ、そこまでは分かるよ。けど、舞台をあえて『学園』と書く意図は?」
「だからね。この手のゲームにはちゃんと予防線が張られているわけですよ」
「予防線?高校を『学園』と書くこと?」
「そうです。この手のゲームの最初には『登場人物は18歳以上です』って但し書きが入るんですけど」
「はいはい」
「で、舞台を『学園』としておけば、18歳未満の不埒な行為を助長するのを避けられる、と」

いや、いくら何でも避けられないでしょ。どう見ても高校生の制服にしか見えないものを着ていて、で、登場する女性は例によってなんかロリロリした感じなんでしょ?それで「この人18歳以上だからオッケーです」って、言えるのぉ?

「言える……というより、無理やりそう主張するんですよ」
「主張する?」
「実際の服が明らかに高校生っぽい、とか、見た目がロリロリだ、とかいうのはもう無視してかかるわけですよ」
「無視するったって、ねぇ。実際は自明なんじゃないの」
「まあ、僕らから見たら自明なんですけど、それでもそうじゃない、と主張するわけです」
「……ということは、たまたまロリロリに見えるけど実際は18歳以上の学生だけで構成される『学園』なる学校があって、そこで何やかにやある、ということ?」
「そういうことです」
「でも、どう見ても高校なんだけどなぁ」
「いや、だから、そういう実に都合のいい『学園』という仮想舞台が設定されていて、そこでどんなにロリロリで未成年っぽく見える登場人物がいたとしても、実はその子達はことごとく未成年じゃないんです、という弁明が展開できるようにしてあるわけですよ」

しかしですな、そこに出てくる子達って、例えば……DMM.COM の18禁ゲーム売り場で散見するような、こんなのでしょ?これが皆18歳以上という「お約束」になってるわけ?で、ここで散見される子達は、18歳以上の人間だけで構成される「学園」なる場所に身をおいている、と?

「そう言い切っているわけです。どれだけ視覚的に無理があろうとも、非難する向きには決然としてそう言い切る、と」

はーなるほど。まさに21世紀のサイバーマージナルですな。しかし、そんな言い訳で納得する方もどうかと思うのだけど。

Rikki Don't Lose That Number

自己紹介には書いていないかもしれないけれど、僕にとって Steely Dan (いつもこの名前を書くのに躊躇してしまう……なにせこの名前は、バロウズの『裸のランチ』に登場するストラップ付き張形 "Steely Dan III from Yokohama" から採ったものだから)は切り離せない存在だ。浪人していたときによく勉強するのに籠っていた、茨城県立図書館のサウンドアーカイブに(なぜか!)綺羅星のごときアメリカンロックの名盤がきっちり網羅されていて、僕は昼休みにあれこれしゃぶり尽くすように聴いていたのだけど、その中にあった Aja をきっかけとして、僕は Steely Dan にすっかりはまってしまったのだった。

あの頃、年長で音楽に詳しい人とたまたま Steely Dan の話になって、あーはいはい、Aja を最初に聴いた、そうか可哀想に、あれぁやっぱりアメリカンロックの文脈の中で聴くべきで、その上からするとやはり初期から聴いといた方がいいと思うけどね、などと言われ、そういえば初期って聴いてなかったなぁ、と思いつつ Can't Buy a Thrill なんかから聴きなおしたのだけど、(今考えてみればそうなるべくしてなったのだろうけど)3rd album の Pretzel Logic(英語的には「ドイツ人的ロジック」という意味なのだろうけど、何せ思わせぶりが身上の Donald Fagen だから、まぁ色々含んでいるのかな……ジャケットはそのまんまプレッツェル売りの屋台なのだけど)を聴いていて、がーん、となってしまった。当然、Rikki Don't Lose That Number (邦題『リキの電話番号』)を聴いたからである。

アコピの左手にリムショットのシンプルなリフ(これをジャジーと形容する人が多いのだろうけどそれは当たり前で、そもそもこのリフは Horace Silver の Song For My Father からの引用なのだから、つまりジャジーじゃなくてジャズだ)から始まった曲は、あのあまりにも有名なねじくれたフレーズでサビへと渡される。こんなスケールって、こんなコード進行ってありなのか?と、考えもしなかった方向からつぶてを食らったような衝撃を受けるのは Steely Dan の場合お約束なのだけど、その鮮やかさと、単に珍奇なだけではなく、それが必然であるようなその巧みな進行に鳥肌が立ったのを、今でも鮮明に記憶している。

で、今でもふと思い返して聞き返したりする。よくある話だけど、「今日の一曲」みたいなものがあって、一度頭にそれが引っかかると、その日に何度もそれを聴いてしまうようなことがあるのだけど、僕の今日の一曲が Rikki Don't Lose That Number だった、というわけだ。

この曲はすさまじいメンツで録音されている。詳細はWikipedia 英語版における解説をご覧いただければお分かりと思うが、あのピアノも実は Donald Fagen ではなく、西海岸のスタジオワークではあまりに有名な Michael Omartian(西海岸のスタジオワークではつとに有名で、Christopher Cross のデビューアルバム "Sailing" をプロデュースし、全米一位 → グラミー賞と獲得したことでも有名)が弾いている。Steely Dan のセッションではおなじみの Victor Feldman は、flopanda と呼ばれる電気マリンバで音場に幻想的な雰囲気をたちこめさせている。そして……あーそうだった、ドラムは Jim Gordon だったんだよな。

Jim Gordon という人は、西海岸のシーンの登場人物としては悲劇の人として知られている。あの有名な Derek & The Dominos のメンバーであり、その中でも Eric Claptonと『いとしのレイラ』を共作した人としてあまりに有名なのだけど、この人の人生は酒で無茶苦茶になってしまったのだ。あの『いとしのレイラ』(具体的には、coda のピアノの部分を彼が書いたといわれている)の作者としてクレジットされたことで、Jim Gordon は莫大な印税収入を得たのだが、生活の安寧を得たはずの彼は酒に溺れ、徐々に幻聴に悩まされるようになる。その幻聴は彼の母親の声で、幻聴に苛まれた彼はついにあるとき、狂気の中で確信してしまう:「母は悪魔なのだ」と。彼は 1983年に実母をハンマーで殴り殺してしまう。裁判の期間中、彼が統合失調症を発症していることが分からなかったために、彼は正当な弁護を得ることなく「15年以上の無期懲役」という判決を言い渡されてしまい……僕の記憶では、医療刑務所に収監されたままだったはずだ。

あれから彼はどうなっているのだろうか、と調べてみたら、恐ろしいことに、彼は未だに収監されたままらしい。出所すれば、莫大な印税収入で進んだ医療措置を受けられるはずなのに、それもままならない状態で、ネット上で減刑嘆願の署名が行われたりしているらしい。ひどい話である。

どうもうわさによると、Jim Gordon がこうなった背景には、彼が『いとしのレイラ』に貢献した分に見合わない利益をクレジットによって得ている、という周囲の下種の勘繰りがあるのではないか、と言われているらしい。しかしなぁ……スタジオミュージシャンというのは完パケ1テイクなんぼ、の仕事で、印税収入での安定した生活がなかなか得られない仕事だったりするので、彼にとって「いとしの……』の収入は、周囲にどうこう言われることがなければきっとプラスにはたらいていたはずである。それを考えると、何ともやりきれない話である……などと思い返しているうちに、どうも救いのない気分になってきてしまった。いけないいけない。まぁそんな感じで、曲ひとつとってみても、色々考えさせられることがあるのだ……知っている人間としてはね。

なぜ Dimension が必要なのか

実は今日はうれしいことがひとつあった。前から探していた Roland™ Dimension D の代替 VST であるWOK VDIMENSION VSTを見つけ、入手したのだ。これでようやく自分の録音の大きな制約をはずすことができる。

……などと書くと「そんなエフェクタがなければ音楽も作れないのか」とか何とか言われそうなのだけど、この Roland™ Dimension D というのは、プレートエコーと並んで僕が長年使いたくて、でも使えなかったエフェクトで、これなしにはとにかく空間構築ができないのだ。今日はその理由も含めて、この Roland™ Dimension D の話を書いておくことにしよう。

Roland™ Dimension D ……オリジナルの型番で言うと SDD-320 ……というのをご存知ない方も多いと思う。それも道理で、もともとこのエフェクタはスタジオで使用されるものだったし、未だに「知っている人は知っている」エフェクトなので、もし中古市場に出ても即効で買い手がついてしまう。だから、どこかに陳列されているのにお目にかかることはまずないし、これを読まれている方が知らないとしても無理もない、と思う。

で、これは何なのか?という話なのだけど……世間に普通にあるエフェクトで言うと、コーラスなどに近い、というと分かりやすいかもしれない。ただし、コーラスとこの Roland™ Dimension D が決定的に違うのは、前者の出音がゆらぎを伴うのに対して、後者はあまりゆらぎを感じないように、音を空間的に拡げるように作られているところだ。これに関しては、実際の音を聴いていただかないと分かってもらいようがない。

で、ここに三種類の音源を用意した。以下、聴いていただきたい。

これは、Fender Rhodes(俗にローズピアノと呼ばれる電気ピアノ……最近はアフラックの CM ソングである『まねきねこダックの歌』で使われているのが有名なのかな)の Stage 2 と呼ばれるタイプをシミュレートした音源でちょろちょろっと弾いているのだが、最初のものが弾いたそのまま、次が WOK VDIMENSION VST を通したもの、そして WOK VDIMENSION VST と IK Multimedia Classik Studio Reverb Plate(プレートエコー……巨大な鉄板に音を振動として与え、鉄板の振動を拾うことで得られる残響を用いたリバーブ……を再現したヴァーチャルエフェクト)を通したものである。Fender Rhodes というのは、そのままで聴くと意外にもズンベラボーとした感じの音なのだけど、Dimension を通したものは、一転して空間を満たした感じに拡がっているのがお分かりいただけると思う。これに更にプレートエコーを加えると、更に空間を強くイメージさせるような音になる。

Dimension を70年代の終わりに開発した Roland™ は日本の企業だけど、この音は、アメリカのスタジオシーンを発信地として世界中に受け入れられた。それまでのマルチトラックレコーディングにつきまとっていた閉塞感を打破し、80年代の音を空間描写に富むものとして僕たちに印象付けたのは、ひとえにこの Dimension のおかげだと言っても過言ではないだろう。オリジナルの Dimension は BBD (Bucket Bridge Device ……微細な FET 間で電圧のバケツリレーを行うことで信号を遅延させるアナログ素子)を使ったばりばりのアナログ機器なのだが、未だに市場に出ると誰かがさっくり買ってしまうのは、とにかくこの音がミックスダウンにおいて不可欠なものとされているからだ。

僕ももちろん、この Dimension の音に魅せられた一人なのだが、SDD-320 はさすがに持っていない。Roland 自身がこの SDD-320 をシミュレートしたものが、ハーフラックサイズのマルチエフェクタである BOSS SE-50 のプリセットに入っているのだけど、こちらの方は中古で即買いした(この SE-50 はその他にもヴォコーダーとして使えるプリセットがあったりするので、その価値を知っている人にとってはマストアイテムのひとつである)。ただ、最近は僕も Cubase 上で VSTi(いわゆるヴァーチャル音源とかソフト音源とか呼ばれるもの)の利用頻度が上がってきたので、わざわざエフェクトループを組むのが大変で、かなり困っていたところだった。今回のこの音源も、実際には Cubase 上で Applied Acoustics Systems の Lounge Lizard EP-3 という VSTi を立ち上げて演奏しているのだが、以前だと SE-50 を通す時点でノイズの混入が避けがたかった。そういう意味でも、今回の WOK VDIMENSION VST の導入は、僕にとっては画期的なことである。

本当は松本明彦氏の開発したプラグインが Windows に移植されるのを待っていたのだが、こちらの方が進んでいない(勿論進んでいないことを非難などできない……欲しいなら自分で作るか金を出せ、というのがソフトの世界の掟なので)ようで、日々代替になるものを探していたところであった。とにかくこのエフェクトが得られるだけでも、僕にとっては有難い。制作時間が確保できるのが今から楽しみである。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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