子供に漱石を教えるには

先日から知人に頼まれて、子供の国語の家庭教師のようなことをしている。読解に関して、先日までで一通りのトレーニングをしたので、短くて印象深い文章を読ませよう、ということで、漱石の『夢十夜』を読んでもらったりしているのだけど、色々聞いてみると、漱石辺りを読むのに必要な前提知識というものを、まだ小学校ではちゃんと教えていないらしい。

うーん……と僕は考えた。自分が小学生の頃のことを考え返してみると、僕は最低限必要な知識は頭に入っていて、それは父や祖母、あるいは通っていた剣道の道場の館長先生などに、その辺のことを教えてもらっていたからなのだろうと思う。ということは、別に学校で教えていなくても、僕が、僕が小さかった頃のそういう人達の代わりになるようなものを書くか、話すかして教えれば用は足りるのではなかろうか。

そう思って、空いた時間を利用してちょこちょこと書いてみたのだが、いやこれぁ大変だ。漱石が登場するまでに20ページ近くかかってしまったではないか。まあ書くこと自体にはそう時間も労力もかかっていないのだけど、自分にとって当たり前のことを分かるように説明する、というのは、これはやはり神経を使うことである。

まあそんなわけで、漱石の説明(ただし漱石が登場する直前まで)の PDF を作成したので、話のタネに公開しておくことにする。souseki2.pdf

蛮行

米CBS女性記者、エジプトで暴行される

2011年2月17日6時53分

【ワシントン=望月洋嗣】米CBSテレビは15日、同局女性特派員のララ・ローガンさんがエジプトのタハリール広場で今月、一連の騒乱を取材中に暴徒に襲撃され、性的な暴行を受けたと報じた。

ローガンさんは、ムバラク前大統領の辞任が発表された11日、報道番組「60ミニッツ」の取材班とともに200人を超す人々に囲まれた後、1人だけ引き離されて暴行されたという。その後、女性の集団と約20人の兵士に救出され、12日朝の便で帰米した。現在も入院しているという。

(adsahi.com, 元記事リンク

もし事実なら、許されざるべき蛮行である。騒ぎに乗じて何をしてもいい、と考える輩が出てくるのは、まあ愚かな人間のいる場では毎度のことなのかもしれないけれど、その度に胸が詰まりそうな心地がする。

オルゴン違い?

何の気なしに新聞を見ていて、仰天した。以下に示すような広告が掲載されていたのだ。

オルゴン療法を名乗る謎の広告

オルゴン療法、と聞くと、いわゆる似非科学の歴史を知っている者として反射的に思い浮かぶのがヴィルヘルム・ライヒという名前である。

ライヒはフロイトの教えを受けた精神分析家で、1922年には医学博士の称号を得ている。彼は「神経植物療法」と呼ばれる治療法を創始した。もともとフロイト派は、患者との会話によって治療を行っていたわけだが、ライヒは、患者に対しもっと肉体的な働きかけをすることで治療成績を向上させられるのではないか、と考えていた。そのため、患者との言葉のやりとりをしなから、患者の身体の緊張をチェックし、情動の刺激による筋の緊張をマッサージのようなやり方で緩和させる、という治療法を編み出したのである。この療法自身は、戦後日本に心身医学が紹介されたときに「生体エネルギー療法」なる名称で紹介されたこともあるのだ、という。

しかし、ライヒと聞いて我々が連想するのは、やはりトンデモな人である彼の半生である。ユダヤ人であった上に、ナチズムを性的抑圧を受けたノイローゼによるサディスティックな性向であると解釈したものだから、ライヒは1934年にドイツを脱出し、ノルウェーに拠点を移した。このノルウェーで、彼のトンデモ形成の基となる二つのトピックに、彼は邁進することになる。ひとつは性科学、そしてもうひとつが「オルゴン」の発見である。

性科学については、ここで特に深く説明するまでもない。そもそもフロイティズム自体が、性的抑圧というものを重んずるわけだけど、ライヒはここに深く傾倒した。ノルウェーのオスロ大学で、ライヒは性科学の研究者として仕事をしていたのである。

そんなある日、彼は滅菌した肉汁を顕微鏡で観察していたときにある小胞を発見し、これをバイオンと命名した。このバイオンを日々彼が観察していたときのことである。彼は、肉汁の中に、バイオンと異なるものを見出した。それは青い光を放っており、視野内で激しく動いていたのだ、という。この光で目を痛めるだろう、ということで、ライヒはこの培地を金属で内張りした木の箱にしまったのそうだが、しばらくして箱を開けてみると、その中は青く光り輝き、培地を外に取り出しても箱の中に光る青い粒子が観察された、という。ライヒはこの青く光る粒子をオルゴンと名付け、金属で内張りした箱にはこのオルゴンを集積・放射する作用があるのだ、と考えて、この箱をオルゴン・アキュムレータを名付けた。このオルゴンの発見以来、ライヒはその新しい粒子の性質の研究に一生を献げることになる。

……とか書くと、さも大層なことのように思われそうだが、このオルゴンなるものがトンデモだということは最初っから指摘されていて、ライヒはオスロ大学を追い出されて、研究の拠点をアメリカに移すことになる。なにせライヒは、このオルゴンなるものが「性的エネルギー」なのだ、と主張していたからだ。今風に言うならば、オースティン・パワーズに登場する「モジョ」のような代物だ、とでも思ったのだろうか。とにかくライヒの主張によるとオルゴンは一種万能の代物であって、ラジウムと相互作用を起こして反放射性オルゴンなる新粒子に変換されるとか、空の黒雲はダーク・マターならぬデッドリー・オルゴンで、オルゴンを中和することで消滅させられるのだ、とか、宇宙人はこのデッドリー・オルゴンで地球侵略を企てているのだ、とか……まあ、彼の中でだけは壮大な話になっていたわけだ。

しかし、社会へのライヒの働きかけは決してそういう万能なものではなかった。彼は先のオルゴン・アキュムレータがあれば、オルゴンを以てがん細胞を死滅させることができるのだ、と主張して、オルゴンによるがん治療機を考案、販売した。これが FDA に見咎められて起訴され、判決時の指示に違反したかどで収監された。そして1957年の秋、ライヒは獄中で心臓発作で亡くなったのである。

このような経緯を知っている人間が上の広告を見たら「これはライヒのオルゴン・アキュムレータなんじゃないの?」と疑いたくもなるというものである。で、上の広告の URL を覗いてみると……

血液、リンパ液、ホルモンの流れがスムーズに行かなくなると、人間は必ず病気になります。そして、血液が詰まる場所は手足の末梢部分にほとんど多く見られます。オルゴンリング開発、製作者の越野稔がこの事実に着目し、長年研究した結果生まれたのが「オルゴン療法」です。

血液の流れが悪くなると滞った部分は冷たくなり、冷えることで神経も鈍くなり、やがては感覚さえも失っていきます。体温が下がるとリンパ液の流れが悪くなり、リンパ液そのものが固まると毛穴がふさがり、皮膚呼吸がうまくできなくなり、血液が心臓に戻る際にきれいな酸素を取り入れられなくなるために、血液に酸素欠乏が起き、二酸化炭素の多い血液(汚れた血液)になってしまうのです。

血液、リンパ管、神経は全身に巡らされているので、末梢部分(手足の指先部分)の詰まりを取ることによって血液、リンパ液の流れがよくなり、各症状が改善されていきます。これがオルゴン療法です。

というわけで、どうもライヒのオルゴン「ですら」ないらしい。まあこういうものはいつの世にもあるもののようだ。

はかもなきこと

何かに集中していると、人は傍目に見ておかしな行動をとることがままある。しかし、当の本人はそんなことを意識していないので、言われてショックを受けることが多いものだ。

LaTeX で文書を書いていたときのことである。ふと、この部分にアンダーラインをひきたいなあ、あれ、どうやってひくんだっけ、と思ったのだった。リファレンス代わりの本を手に取り、索引を開く。えーと、アンダーラインだから「傍線」かなあ、ぼ、は行、えーと……

と、横に居た U が笑い出した。

バイキンマンかあんたは?

最初は集中していたので分からなかったのだが、あー……索引をひくときの癖で、つい「は〜ひふ〜へほ〜」と口走っていたらしい。うーむ。確かにこう言われても仕方あるまい。可笑しくも情けない話であった。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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