海上保安官取調べ中

今日の昼前、日本テレビが大スクープをものにした。尖閣諸島のビデオ流出事件に関して、神戸の第五管区海上保安部所属の海上保安官が、乗船中に上官に対して「自分が流出させた」と告白し、現在第五管区海上保安部内において警視庁の捜査官の取調べを受けている、というのだ。

海上保安官が流出させた、ということに関しては予想の範囲内だったのだが、神戸の第五管区だったことは、正直言って予想外であった。まあ、9月のある期間において、石垣島にあったプレス用に編集された動画が、海保庁内において自由にアクセス可能な状態にあった、という話なので、物理的にはおかしくも何ともない話ではある。

ここで声を大にして主張しておきたいのは、今回の事案を単なる公務員の守秘義務違反に矮小化してはならない、ということである。そもそも、問題となっている動画はなぜ公開されなかったのか、公開されなければならなかったのではないか、という問いかけを、我々は忘れてはならない。トカゲの尻尾切りにしてはいけないのだ。

そして、今回の件に関して、自民党は馬渕国交大臣と仙石官房長官が辞任しない場合、参議院への問責提議をも辞さない、と表明しているらしい。まあ馬渕の首を切ってどうこうという話ではないと思うけれど、やはり仙石の責任は問われるべきだし、それを聞こうともしない仙石の傲慢さは、糾弾されてしかるべきだろう。この件に関しても、海保庁長官辞任という「トカゲの尻尾切り」で済ませてはいけない(そもそも鈴木海保庁長官が辞任するような話ではないと思うのだけど)。この点も、我々はまた忘れてはならないのだ。

今後の推移を、我々は注意深く見守っていく必要があるだろう。僕も何かあったらまた何か書くかもしれない……いや、僕は別にその筋の専門家でも何でもないんだけどね。

「秘密」の定義

尖閣諸島ビデオ流出事件においては、神戸の漫画喫茶から画像が投稿されたとの情報が流れている。管内閣は、今回の事件を、公務員の守秘義務違反事案として取り締まる気がマンマンのようであるが、この何日かの間に「あれは『秘密』と言えるのか?」という議論が噴出している。

国家公務員法における諸問題に関しては先日 blog に書いたとおりであるが、あれの最大前提として、「秘密を侵した」ということが求められるわけだ。で、あの尖閣ビデオは「秘密」なのか?という話になるわけだけど、そもそも法における秘密の定義って何なんだろうか。

おそらく、この手の法律で言うところの秘密の定義は、以下のようなものと考えられる:

一般的に了知されていない事実であって、それを一般に了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられるもの
もっとくだけた表現をするなら、「秘密」とされるものの条件というのは:
  • 知られていないこと
  • それが知られることで何かしら利益が損なわれる(と客観的に考えられる)もの
ということであろう。これに照らして、今回のビデオが「秘密」なのかどうか、を考えると……まず、映像それ自身に関しては、国会議員と一部の公務員以外には知られていない。しかし、国会議員の証言などを元に、その内容が CG として再現されたものがひろくメディアで流布されているわけで、この状態において「一般的に了知されていない」と言えるかどうかは、ちょっと首を捻らざるを得ない。

そして、あのビデオの内容が知られることで客観的に利益が損なわれるようなことがあるのかどうか、である。今回の場合は、中国政府の態度が硬化する、というのが「利益が損なわれる」というのにあたるのだろうけれど、これは先方の意向なのであって、日本の法体系で規定・保証されたかたちで、何者かの利益が損なわれているというわけではない。

おそらく仙石はこう言うんだろう:「現政権の利益が損なわれていることは明々白々な事実である」と。しかし、だ。日本の法体系の範囲内で「それを一般に了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられる」のだろうか?現政権が利益を損なわれたと考えているだけでは不十分だ。なにせ「客観的に考えられる」ことが求められているのだから。

というわけで、各方面から「あれって秘密じゃねーんじゃねーの?」という疑問が噴出しているわけだが、東大法学部3年で司法試験に合格、東大を中退した仙石は、この辺を法曹として何もちゃんと説明していない。ぜひ、法的な根拠を以て、あれのどこが秘密なのかを示していただきたいものである。

夜のピクニック

僕の出身高校の先輩にあたる人の一人に、小説家になった女性がいる。彼女の名は恩田陸というのだが、皆さんもご存知の通り、『夜のピクニック』という小説で、第二回本屋大賞を受賞した人である。

水戸を舞台に映画化されたこの小説の影響だろうか。最近あちこちの高校で「24時間ウォーク」なるものが行われているらしい。しかし、僕を含めたあの高校の出身者から見たら「はぁ?」みたいな話である。あの小説の舞台になっている、水戸一高の「歩く会」は、単に歩くだけの会ではないのだ。

「歩く会」は毎年開催される。この会に参加するために、水戸一高の生徒は体育の時間に 6 km 程のクロスカントリーコースを毎回走る。これは水戸一高の生徒にとっては当たり前のことなのである。そして開催される「歩く会」だが、歩くのは「集団歩行」と呼ばれる、スタートから大体 50 km 程度の地点までである。集団歩行後、休憩・仮眠をしてから、「自由歩行」と呼ばれるステージに移行する。「自由歩行」だから、もちろん歩いても構わない。遅れた生徒を回収するためのクルマに追い付かれない程度の速さで歩いていればいい。しかし、この「自由歩行」は順位をつける。だから、水戸一高のほとんどの生徒は、この「自由歩行」の 30 km 弱の距離を走るのだ。勿論、50 km を歩いた、その後に、である。

僕は水戸一高の応援団に結構知り合いがいたのだけど、旧制中学時代からの伝統を背負った彼らは、学ランに朴歯の高下駄を履いて「歩く会」に参加する。しかも旗手は旗を持って、である。下駄の鼻緒で足は惨いことになるのだが、自由歩行のとき、彼らは手に下駄を履かせて裸足で走る。僕が高校生だった時代でも、これだけキツいことをする高校生というのはそうそういなかったと思うけれど、彼らは飄々と毎年これをやるのだ。

僕はあまりこういう行事で張り切る方ではなかったのだけど、三年のときは最後だということもあって結構頑張って走った。今でも覚えているのだけど、ゴールインした後、部室棟で着替えようと思って棟に入ったとき、ふと顔を触るとどうもザラザラする。入口を入ってすぐ右側に鏡があったので、それを覗き込んでみると、顔に白い粉が付いている。手で擦ると、その粉がはらはらと落ちて、そのときようやく僕は、自分の顔に塩をふいていることに気付いたのだ。まあ、ちゃんと走ると、そういう感じである。

しかし、このような行事を毎年行っていて、しかも生徒の9割以上が完歩(感覚としては完走に近いのだけど)して、しかも僕の在学していた頃には、東大に毎年20人位入っていた。水戸一高はそういう学校だったのだ。そして「歩く会」も、単に皆で仲良く和やかに集団歩行するだけの会ではなくて、後半にはちゃんと競い合う厳しさというものがあった。だから、「24時間ウォーク」などと聞いても、僕達にしたらちゃんちゃらおかしな話なのである。

内部告発者の罪とは

尖閣諸島沖における中国漁船の問題で、ビデオ画像を公開したのが誰なのか、目下犯人探しが進んでいるようである。正直言って、刑事事件としても処分保留・被疑者釈放となってしまった事件の証拠物件に対して、公開がそれ程の問題になるとも思えないし、そう扱うべきでもない、とは思うのだが、一時期とは言え国家公務員であった僕としては、どうしても気になる問題がある。

国家公務員法という法律がある。この国家公務員法、通称公務員法で、公務員の守秘義務が以下のように規定されている:

(秘密を守る義務)
第百条  職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。
○2  法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表するには、所轄庁の長(退職者については、その退職した官職又はこれに相当する官職の所轄庁の長)の許可を要する。
○3  前項の許可は、法律又は政令の定める条件及び手続に係る場合を除いては、これを拒むことができない。
○4  前三項の規定は、人事院で扱われる調査又は審理の際人事院から求められる情報に関しては、これを適用しない。何人も、人事院の権限によつて行われる調査又は審理に際して、秘密の又は公表を制限された情報を陳述し又は証言することを人事院から求められた場合には、何人からも許可を受ける必要がない。人事院が正式に要求した情報について、人事院に対して、陳述及び証言を行わなかつた者は、この法律の罰則の適用を受けなければならない。
○5  前項の規定は、第十八条の四の規定により権限の委任を受けた再就職等監視委員会が行う調査について準用する。この場合において、同項中「人事院」とあるのは「再就職等監視委員会」と、「調査又は審理」とあるのは「調査」と読み替えるものとする。

で、これに違反するとどうなるか、だけど、これも国家公務員法に規定があって、

     第二款 懲戒

(懲戒の場合)
第八十二条  職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一  この法律若しくは国家公務員倫理法 又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項 の規定に基づく訓令及び同条第四項 の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
   第四章 罰則

第百九条  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(中略)
十二  第百条第一項若しくは第二項又は第百六条の十二第一項の規定に違反して秘密を漏らした者
ということで、今回の画像公開が内部告発によるものである場合には、国家公務員法の規定からみると、まず「免職、停職、減給又は戒告の処分」が適用され、その上で「一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」という罰則が適用される可能性が大きい。まあ、ああいう告発をするからには、おそらくは職を賭して行ったのだろうと思うけれど、もし告発者が同定されたら、内部告発者の保護という観点からも、弁護士会辺りに大弁護団を作っていただきたいものである。おそらく国民は皆、そうあってほしいと思っているだろうから。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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