渡辺 温

ひょんなことから、渡辺温の作品群が青空文庫収録されているのを発見して、夕食後の時間は何本かの短編(といっても、渡部温は短編しか残していない)を読んでいた。

実は今日まで、僕は渡辺温が自分の母校(旧制水戸中学校、現在の茨城県立水戸第一高等学校)の大先輩だということを知らなかった。それに、誕生日も僕と一日違いだ。いや、これは本当に知らなかった。それを知らずに、自ら探すわけでもなく、たまたま青空文庫の作品群に行き当ったのは、これは何かあるのだろう……というのは考えすぎかもしれないが、でも、そう思いたくもなろうというものだ。

渡辺の作品は、ときに陰惨であり、残酷であるけれど、でもそれらに現実の生々しい臭いを感じさせない。幻想的であって、そして短編しか残されていない彼の作品の多くは、呆気無く終わる。妙に乾いている。普通ならねとりと糸を曳きそうな愛憎が、まるで乾燥した老廃物のようにはらりと剥がれ落ちる。そんな感じだ。

27歳の若さで、夙川の踏切(阪急神戸線だ!)で事故に遭いこの世を去った彼より、今の僕はもう一回りも齢をとってしまっているけれど、この機に渡辺とネット上で邂逅を果たしたことに、偶然を越えた何かを感じて、どうも眠れずにいる。こんな気持ちになるのは、もう何年ぶりのことだろうか。

ハンガリーの赤

ハンガリー、ブダペストの西南西にアジュカ(後記:これは間違い。あえてカタカナで書くならばアユカとかアイカと書くべきか) Ajka という町がある:

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この Ajka で4日、アルミ精錬工場に併設された廃液貯蔵のためのダムが壊れ、大量の赤い廃液が溢れ出した。すでに死者が4名、けが人を含めると100人以上の被害が出ており、この廃液がドナウ川に流れこむことによる大規模な環境被害が懸念されているのだ、という。これは一応僕の専門分野に関係した話なので、今回はこの廃液が何なのかを書いておこうと思う(いや、まあ採鉱は厳密には専門分野ではないんだけど、でも僕の専門分野における一般教養として教わってはいるので)。

まず、アルミをどうやって作るのか、という話をしなければならない。鉄の原料が鉄鉱石であるように、アルミにも原料になる鉱物のようなものがある。皆さんも学校の社会の時間などに名前位はお聞きになったことがあるかもしれないが、これをボーキサイトという。

ボーキサイトは、アルミニウムの水酸化物を豊富に含んでおり、不純物としてはシリカ、酸化鉄、二酸化チタンなどが含まれている。これを金属アルミニウムにするために、まずはアルミニウム以外の金属元素とシリカを除去しなければならないのだが、そのためには、まずボーキサイトを高濃度の水酸化ナトリウム水溶液で煮る(煮るといっても、その温度は摂氏200度を超えるのだが)。こうすると、アルミニウムを含んでいる成分だけが溶液に溶けこむ。たとえば水に対して不溶性のアルミナ(酸化アルミニウム)だと:

Al2O3 + 2 OH- + 3 H2O → 2 [Al(OH)4]-
という反応を経由して溶解する。この溶液の上澄みを取って(つまり沈殿物を除去して)冷却すると、沈殿物として水酸化アルミニウムが得られ、それを高温で焼くと、他の金属元素をほとんど含まない高純度のアルミナが得られる。ここまではバイヤー法と呼ばれる方法なのだけど、ここからは有名なホール・エルー法を用いて、電解精錬法で金属アルミニウムを得ることになる。

さて、で、今回のハンガリーのアレは何なのか?という話になるわけだけど、あれはボーキサイトを水酸化ナトリウム水溶液で煮たときの沈殿物である。高濃度の鉄が含まれていて、その鉄が三価のイオンになっているからあのような色なのである(ベンガラ……紅殻とも言うけど……を連想していただければ分かりやすいと思う。ベンガラは第二酸化鉄 Fe2O3 で、これも三価の鉄イオンを含んでいる)。これを「赤泥(せきでい)」と言うのだが、その主成分は第二水酸化鉄 Fe(OH)3 とシリカ、水、そして水酸化ナトリウムである。

この赤泥はそのままでは強アルカリ性のため、塩酸や硫酸で中和してから廃棄する必要があるのだが、塩酸も硫酸もタダではない。捨てるもののために多額の出費をするんだったら、未処理のまま溜めておけばいい……そういう考えだったのだろう。しかし、強アルカリは生体組織を容易く侵す。未処理の赤泥が目に入ればかなりの確率で失明するし、皮膚に付着した場合も、すぐに大量の水で洗い流さなければ皮膚の炎症を起こしてしまう。

日本では考えられない話だが、これはひょっとすると、東西冷戦時代の負の遺産だったのかもしれない。いずれにしても、強アルカリの環境への影響は実に深刻であって、今後が懸念される問題だと言わざるをえない。場合によっては、日本の援助が求められることがあるかもしれない、のだが……今の日本はそんなことも満足にできそうもない。情けない話ではないか。

もうひとつの検察審査会

民主党の横峯良郎参院議員を、皆さんご存知だろうか。横峯議員の娘の名前は、おそらくご存知だろう……横峯さくら。あの有名な女子プロゴルファーである。横峯さくらの父、ということで、先日の参院選のひとつ前、2007年7月29日投開票の第21回参議院議員通常選挙に比例区で立候補・当選した議員である。

あえてここに断言してしまうけれど、横峯良郎という人の政治家としての資質は、限りなくゼロに近い。それは、当選前後に何度となく確認された問題発言だけをみても明らかである。たとえば、投票1週間前の演説会において、年金納入をせずに虚偽の申告をすればいい、という旨の発言をしているし、当選後も、テレビ番組で赤城徳彦の事務所経費問題に関してコメントを求められた際に「事務所経費に関して先輩議員に聞いたら、飲食費だから領収書など出るわけがない、と言われた。政治家は皆そうだ」「民主党でも多分そうだと思う」という発言をして、同席していた原口前総務大臣が「それは事実に基づいていない」と訂正をしている。

僕も観ていたので鮮明に記憶しているのだが、この年の暮れに爆笑問題の番組に出演した際には、当時問題視されていた自身の不倫問題について追及されたのに逆上、共演者のやくみつるやテリー伊藤に暴言を吐いた。そして、自ら政治資金規正法に反する行為をしていたと口にし、それを追及されると「俺じゃねえよ、(娘の)さくらだよ」とうそぶいた。このときも原口氏が同席していた(今にして思えば、民主党は横峯氏のこういう部分を重々承知していて、原口氏を目付役として同席させていたような気がするのだが)のだが、原口氏はあまりのことに呆れ、「ちょっと本当にいい加減にしろよ」と横峯氏を怒鳴りつけたのだった。

横峯氏の不祥事として報道されているのは:

  • 賭けゴルフ(本人も事実を認めている。公訴時効で訴追はされなかったが、民主党内で幹事長厳重注意の処分を受けた)
  • 年金未納
  • 不倫(本人も事実を認めている)
  • 不倫相手の女性に対する DV(本人は否定、女性と報道元を名誉毀損で提訴したが、報道元は徹底抗戦の構えである)
……と、ちょっと調べてもこれだけある。まあ、こんな輩を国会議員にする民主党も民主党なら、有権者も有権者だと思うのだけど、この騒ぎがこれで終わったわけではないのだ。小沢一郎氏への「起訴すべき」議決問題のかげに、実はこういうニュースが流れていたことを、皆さんお気づきだろうか。

横峯議員を聴取=検察審議決受け−関与を否認・東京地検

検察審査会が恐喝事件で飲食店経営会社役員の男性を「起訴相当」とした議決書で、民主党の横峯良郎参院議員(50)について「深く犯罪に関与している」と指摘したことを受け、東京地検は6日までに、横峯氏を任意で事情聴取した。

横峯氏側によると、聴取は9月下旬から10月5日にかけ、計5回行われ、同氏は関与を全面否認した。

東京第4検察審査会の議決書は、男性から相談を受けた横峯氏が、プロレスラーらを手配するなど恐喝を画策し、失敗すると「やり方がぬるい。もっとバンバンやれ」と指示するなどしたと指摘。「横峯氏が介入しなければ、おそらく事件は発生しなかったと思われる」とした。

その上で、横峯氏を聴取しなかった同地検の捜査を「あまりにも不平等、適正を欠いている」と批判していた。

事件では、東京都渋谷区の飲食店に押し掛け、飲食店経営者から現金約30万円を脅し取ったとして、男性やプロレスラーら6人が逮捕された。東京地検は、脅し取られた現金が返されたことなどから、昨年12月に全員を不起訴としていた。

(時事ドットコム, 2010/10/06-10:57)

original:http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010100600243

……なぜこんなことになるのか。それは横峯氏がプロレス好きであることと関係があるらしい。横峯氏は前田日明の大ファンで、前田氏がかつてスーパーバイザーを務めていた団体であるBIG MOUTH LOUDの顧問に就任、前田氏が団体を離脱した後も現在に至るまで顧問に就いている。また、NEO 女子プロレスとも親交が深く、女子レスラーを連れて飲み歩く姿がメディアに流れたりもしているそうだ。

今回の件では、横峯氏が経営する黒豚しゃぶしゃぶ店でバイトしていたプロレスラーの橋本友彦、小坂井寛の二氏を含む6人が東京・渋谷区の飲食店へ押しかけ、暴言・居座りなどの営業妨害をした末に売上金約31万円を奪った、ということらしい。その後、奪われた金が返されたことから飲食店側は公訴を取下げ、東京地検は関係者を不起訴処分にしたものの、検察審査会は上に示したように「横峯氏が深く関与している」という判断を下したのである。

この件で、横峯氏は目下謹慎処分ということらしいのだが、静かにしていればそれでいいんですかね?こんな奴にも国会議員歳費が支払われているんですよ?国民の血税から。この件に関して、今日からの国会で追及されるべきだし、横峯氏は黙って歳費を戴いているのではなく、社会人として然るべき責任をとるべきだ。この件を小沢氏問題の陰に埋没させてはならないのである。

落武者、貞子、断髪

この一年近く、実は髪を伸ばしていた。丁度、昨日保釈された押尾某:

釈放された押尾某

よりも少し長い位まで、肩を覆う位まで伸びた髪を、時には後ろで束ねながら過ごしていたのだけど、U にも「いい加減に切ったほうがいい」と忠告され、とうとう今日の昼間に思い切って切ることにして、近所の美容室に入った。

この美容室には今までにも何度か来たことがあったのだけど、今日は初めて(そう、初めて!)ヘアカタログを渡された。うーん……ショート気味のさっぱりしていそうなのを選んで、まあこんな感じで、と告げて、カットが始まった。

なにせ長いので、クリップで留めては切り、また留め直しては切る、を繰り返す。

「しかし伸ばしましたねえ」
「ええ……まあ、伸ばしたというか、伸びてるというかね……」
「で、今日切ろうと思わはったんですか?」
「ええ。しかし……どうせなら夏前に切りゃあいいのにねえ」

というと、美容師の女性のツボにはまったらしく、しばし笑い。

「夏、大変でしたねえ。でも、せっかく夏越えたのに、切っちゃうんですね?」
「ええ。なんか、落武者みたいに見えてきてね」

これが再び美容師の女性のツボにはまったらしい。

「ワタシも貞子って言われるんですよ」
「貞子?あー、前髪で顔が隠れる?」
「そうなんですよ。ワタシ、前髪長いんで。でも……落武者って。それはひどい」

山下達郎が自分で自分のことを落武者と言っていることは、山下氏の名誉にかけてここでは言わなかったけれど、かくして、落武者の髪を、貞子はばっさりと切り落としたのだった。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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