先程、昨日の日記に登場した K さんからお礼の電話をいただいた。事の経緯を聞き、昨日にもまして僕は腹を立てている。
K さんのトラブルに対して実際に対処して下さった方は、やはり EdMax ユーザだったらしい。そのために、僕の書いた手順書だけでなく、ユーザとしてのノウハウもあったので、対策はスムースにすすんだのだそうだが、いざ問題のメールを受信してみると、Microsoft Word の2ページ程の長さの document で、文書中に数枚の写真が貼られていたのだという。ここまで読まれて、皆さんはこの経緯をどのように把握なさるであろうか。
僕の認識はこうだ。数枚の写真で 10 MB の制限に引っかかるということは、1枚の写真あたりの容量が 2 MB とか 3 MB とかだった、ということであろう。この大きさから想像するに、おそらくはデジカメで撮影した画像ファイルの分解能などをいじることなしに貼りつけて、画面上の体裁だけを整えたような文書だった、と考えるのが妥当であろう。K さんに聞いてみると、果たしてそのとおり、デジカメで撮影した写真を貼り付けていたのだ、という。
「K さん、それが原因ですよ。画像が大きすぎるんです」
「そうみたい。しかも、メールの送り主が、『ちゃんと受信できるように再送したから、受信できないのはおかしい』って言ってたんだけど、受信してみたら、問題のメールの後に、その document を 1 ページ毎にしたメールが2通来ててねえ」
「……それは何も対策にはなっていないと思いますよ」
「うーん。でね、『うちの環境ではそういう文書をメールで送信されると受信できない』って言ったらね、『それはパソコンのメモリとかが小さすぎるからだ』とか言われたのね」
……神よ、K さんは何故こんな理不尽なことを言われなければならないのでしょうか?僕は天を仰いだ。
「いや……はっきりさせておきますけれど、K さんの手元のシステムのせいでは 100 % ないですから。そもそも電子メールというメディアは、そんな大容量のものを送るために作られているものではないんです。乗用車に何 t もある荷物を積んで運んでるのと一緒ですよ」
……しかし、10 MB とか 20 MB とかの容量制限に引っかかるメールって、一体何なんだろう。最近の人々はBase64とか知らないのかもしれないけれど、そんな非常識な大きさのメールを送りつけておいて、受信できないのを受け手のせいにするなんて、こんな非常識な輩は早々に purge されてしまえばいいのに。
10 MB を超える電子メールって、実際にはどんな分量に相当するんだろうか。たとえば、文庫本で300ページを超える『夏への扉』だって、plain text にしたら 400 KB である。仮に「文庫本300ページが 400 KB」だとすると、10 MB の plain text ってのは、文庫本7500ページ、『夏への扉』25冊分に相当するのだ。そんなものを何も考えずに送りつける人のことを stupid とか crazy とか言ったって、僕は罰は当たらないと思うのだけど、皆さんはどう思われるであろうか?
【追記】
OCN のメール関連の仕様はこの通り。100 MB のメールまで送信可能、だぁ?全く、頭、膿んでるんじゃなかろうか。
夕食後、PHS が鳴り出した。着メロはキリエ……この着メロを割り当てている人は一人しかいない。この方が僕に電話をかけてくるのは、(多くの場合他者のエゴに起因する)何かしらかのコンピュータのトラブルがあったときなのだ。出てみると、果たせるかな、まさにそういう要件だった。
「あのね、メールが受信できなくなっちゃった」
聞いてみると、どうやら一通のメールが容量オーバーで受信できず、そのメールがメールサーバのスプールに「詰まって」しまったために、それ以後のメールもサーバ上から消えないままになっているらしい。
この方(以下 K と記する)は、EdMax というメーラを使っている。この EdMax というのは、結構評判のいい MUA で、いわゆる半角カナも全角に変換してくれたり、と、その振る舞いはたしかに非常にお行儀がよろしい。
この EdMax、実はメールの受信容量制限が結構キツいことでも知られている。シェアウェア版で 20 MB、フリー版では 10 MB 以上の大きさのメールを受信しようとすると、EdMax は受信を拒絶するのだ。僕自身の認識としては、このようなソフトの振る舞いは好ましいものなのだけど、いつの世にも、残念なことに非常識な人というのが存在して、そういう輩は際限もなく馬鹿の一つ覚えで非常識なことをしでかしてくれるので、K さんのようにその犠牲になる人がでてくるわけだ。
K さんの近所に PC 関係に結構詳しい方がおられるということで、.ini ファイル中の受信容量制限設定の部分のイジリ方を文書化して、今回のメールアドレスとは別のアドレス宛送信して、先程無事に該当メールを消すことに成功したそうだ。
で、さっき S に電話したときに、この件に関してひとしきり愚痴っていたのだが、
「そう言えば、うちのプロバイダはあまり大きなメールはサーバが弾くよ」
と言われて、あーそうだよな、どうして今回みたいな事態になるんだろう、という話をしていたのだった。Sendmail でも postfix でも、僕みたいに qmail を使っている場合でも、MTA というのは受信メールの容量上限値を設定できるようになっていて、サーバで弾くことは難しくも何ともない。もちろんどこを上限にするかは admin の常識とユーザの常識によって決まるわけだけど……
「そうだね。あれ…… K さんの使ってるプロバイダって……えーと」
あー、思い出した。なるほど、あるいはここは日本一非常識なプロバイダかもしれませんね、ええ。
今日は昼前に銀行に行って、食事をしてからは、昨日作成した『夏への扉』の PDF 版を読み返していた……うーん。意外と訂正を要する箇所があるようだ。
この私家版『夏への扉』 PDF 版は、早川書房の文庫本を底本にしている。ハヤカワ文庫の『夏への扉』の訳者は……さすがに僕でも知っている。『SFマガジン』初代編集長だった福島正実氏のはずだ……と、amazon で確認したが、やはり僕の記憶は確かだった。
福島氏というと、日本の SF における草分け、という言葉がこれ以上似合う人はいないだろう。都築道夫氏と共に「ハヤカワ・ファンタジー」を立ち上げたのが1950年代中盤とのことだから、言ってみれば日本の SF の土俵を作った人だと言ってもいい。また、いわゆるジュブナイルに代表される、SF の啓蒙活動に最初期から取り組んだ人でもある(あのカルト的に有名な科学恐怖映画『マタンゴ』の原案を星新一氏と共同で担当したのはこの福島氏である)。
日本語訳の『夏への扉』の初出は、前述の「ハヤカワ・ファンタジー」改め「ハヤカワSFシリーズ」で1963年に出版されている。これが福島氏の訳なので、今回の文庫版もおそらくは同一の訳文だと思われる。まあ時代的に、当時の up to date な英語に対応するのは困難だったのかもしれないが、
「書いていたのです。で、そのとき、国防省のほかの課にいたある若い哲学の学位を持つ男から、一切の真相を聞いたのです。その男の話では、もしあなたが、例の研究を公けに発表しておられたら、おそらく、先生の名前は、現代物理学における最も著名なものとなっていただろう――こういってました」
(福島訳『夏への扉』9章)
……これは、冷凍睡眠から目覚めた2001年の主人公が、時間旅行を実現したトウィッチェル博士にとりいろうとしている場面だけど、「哲学の学位」というのは何だろう?まあ持ってるから言うわけじゃないんだけど、「哲学の学位」というのは、おそらく
Philosophiae Doctor(英語で Doctor of Philosophy と書かれているのかもしれないけれど)の誤訳だと思われる。僕らにしてみたら、あまりに典型的な誤訳である。
この『夏への扉』は、去年新訳本が出ているのだけど、訳者は小尾芙佐となっている……小野女史はやはり SF の翻訳者として有名な人で、たとえば『夏への扉』と同じ年に出版された、アイザック・アシモフの『われはロボット』を翻訳したのはこの小野女史である……うーん。もっと若い人の訳が出てもよさそうなものなのだけど。いっそ自分で訳してみるべきか?などと思い、そのせいもあって小野訳には手を出さずにいるのだった。
あと、今回の元になっているテキストファイルは、青空文庫のフォーマットに準拠している(誤解なきよう強調しておくけれど、『夏への扉』は青空文庫に収録されてはいない……あくまで私家版というところをご理解いただきたい)のだけど、感嘆符と疑問符の直後に空白が挿入されている……うーん、これはどうかと思うなあ。
というのも、日本語の電子テキストにおける感嘆符・疑問符の取り扱いに関しては JIS X 4051 に規定があるのだ。どういう規定かというと、
- 日本語中の感嘆符・疑問符は全角幅とする
- 直後に始め括弧類(“(”、“「”など)がある場合は後ろに半角幅の間隔、直後に中点類(“・”、“:”など)がある場合は後ろに四分幅の空白をあけ、それ以外の文字が直後にある場合は間隔をあけない
- 行頭禁則文字であり改行時に行頭にきてはならない
というものである。実際、pTeX 系列の TeX/LaTeX で日本語を書くときに感嘆符・疑問符を全角で書くと、これに準拠するように間隔や改行などが調整されているようだ。まあ、感嘆符・疑問符の後に空白があるのを除去するのは、GNU Emacs 等を使えばあっという間なので、何も問題はないのだけど。