原稿用紙、その後

原稿用紙マクロが使えるようになった、ということで、一例として、原民喜の『夏の花』の一節を版組みしてみることにした……のだが、冒頭に出てくる:

         わが愛する者よ請う急ぎはしれ
         香わしき山々の上にありて、獐の
         ごとく小鹿のごとくあれ
で、「獐」(ノロ)という漢字が出てこない。うーむ。これは OTF パッケージを使う必要がありそうだ。

原稿用紙マクロは、桝目に文字を合わせるために独自のフォントメトリックを使っている。OTF パッケージも独自のフォントメトリックを使っているので、そのまま OTF パッケージを使用しようとすると、文字の配列が無茶苦茶になってしまうのだが、otf.sty を読み込むときのオプションに noreplace というのがあって、これを指定しておくと、フォントメトリックはそのままにして、文字を \UTF{} や \CID{} で読み込むことができる。

ということで、やってみると……あれれ?
(/usr/local/texlive/2011/texmf-dist/tex/platex/japanese-otf-uptex/otf.sty
! Too many }'s.
l.139 ^^I}
とエラーが出て処理が中断する。うーむ、これは原稿用紙マクロのせいなのかもしれないけれど、気になるのはふたつ。ひとつは、明らかに otf.sty を読み込んだところでこのエラーが出ている、ということ。そして、中括弧に起因するエラー、というのは、いわゆるネストを出入りするようなルーチンを書くときに、しばしば発生するものだ、ということ。ひょっとして、これは otf.sty の問題なのではないだろうか、と考えた。

otf.sty で、フォントメトリックの置換を行っているルーチンを見たが、ちょっと見ただけではよく分からない。では、原稿用紙マクロ以外でこのような現象が発生することがないのか、ちょっと試してみたところ……

\documentclass{article}

\usepackage[noreplace]{otf}

\begin{document}

これは OTF パッケージのテストです。

\end{document}
これを platex で処理すると……同じエラーが出るではないか。しかも、article では出るのに、jarticle や jsarticle では出ない。うーん……

ということで、思い切って TeX wiki で聞いてみたのがこれだ。原因はやはり、replace に関わるネストにあるようで、皆さんコーディングを検討して下さった。まずは感謝の意をここに表したい。

いくつかの改善案のひとつを基に otf.sty を書き換えると、article の場合も原稿用紙マクロの場合もうまくいくことが分かった。勿論、jarticle や jsarticle でもうまくいく。やはり、三人寄れば文殊の智恵とはよくも言ったもので、 TeX マクロに慣れている人の助けを借りるべきときは、こうやってお願いしてみるのが早道なのかもしれない。

(後記)ここで書かれている問題に関して改善された OTF パッケージ ver. 1.7b5 がリリースされた。齋藤修三郎氏の迅速な対応に対し、ここに深く感謝の意を表するものである。TeX Live 収録のパッケージも修正されたとのこと(CTAN の announcement)だが、現時点では CTAN や TUG のサーバでも反映されていない模様。少し気長に待つべきなのか? 余談だけれど、英語で Mr. Ueda と書かれたのは久しぶりのような気がする……知ってれば当然 Dr. Ueda とか Prof. Ueda とか書くだろうけれど、まあご存知なくて当然か。

原稿用紙モード

とある事情により、原稿用紙に LaTeX で文章を組版することになった。こういうのは本当に勘弁してもらいたい……何故って、TeX / LaTeX が一番苦手としている処理だからだ。

でも、まあブツクサ言っていても何も進まないので、昔の記憶を掘り返しながら、まずは NIFTY の FTEX 辺りで流れていたマクロを探してみる……なかなか発見できなかったが、 Google The Big Brother によって以下の URL を発見:

ftp://masui.med.osaka-u.ac.jp/pub/public/latex/style/
ここから fgenko10.lzh を頂戴してくる。

こういうヤクザな代物をシステムに入れるのは躊躇われるので、今回は ~/texmf 以下に入れることにする。まず

~ / texmf / tex / latex / fgenko
|
/ fonts / map / fgenko
/ pk
/ sources / fgenko
/ tfm / fgenko
/ vf / fgenko
のようにディレクトリを作成しておく。

~/texmf/tex/latex/fgenko には、

  • binsen.clo
  • genkin.tex
  • genkomac.sty
  • genkou.cls
  • genkouid.tex
  • ribon.clo
  • tgenkou.clo
  • ygenkou.clo
を入れておく。これらは全て Shift_JIS、かつ CR+LF なので、ディレクトリに収容した後、"nkf --overwrite -w -Lu -d ./*"をかけておく。これでも末尾の CTRL+Z が除去し切れないことがあるので、一応 less 等でチェックしておくこと。

~/texmf/fonts/tfm/fgenko には *.tfm をコピー。このディレクトリ内で、

$ makejvf gmin10 rml
$ makejvf gtmin10 rmlv
として生成した vf ファイルを ~/texmf/fonts/vf/fgenko に移動しておく。~/texmf/fonts/sources/fgenko には gerib10.mf を入れておく。

~/texmf/fonts/sources/fgenko 内で、

$ mktexpk --mfmode / --bdpi 600 --mag 2+90/600 --dpi 1290 gerib10
とすると、~/texmf/fonts/pk/ljfour/fgenko/gerib10.1290pk が生成される。ここまで終わったら、
$ cd ~
$ mktexlsr ./texmf
として ls-R データベースを更新しておく。

さて、これで、

\documentclass[縦,A4]{genkou}
\begin{document}

   原稿用紙テスト

               何之 某

 これから、原稿用紙でのTeXによる組版の問題についてみていこうと思います。そもそも、TeXで均等割りの版組みを行うというのは、その思想に反した行為だと思うのですが、日本の場合はそれに反することを強制されることがままあり、それに対応する必要がある、というわけです。

 現在の状況に関して書いておくと、ホームディレクトリ以下に「原稿用紙パッケージ」をセットアップしてあります。フォントは小塚フォントを用いるようにしてみたのですが、ずれるので埋め込まずに使っています。

\end{document}
のような文書 genkoutest.tex を作成し、
$ platex genkoutest.tex
$ dvipdfmx -l genkoutest.dvi
と処理すると、かなり綺麗に原稿用紙に割り付けられた文書が出来上がる。現時点での問題点は、
  1. フォントを埋め込むとずれる。(後述:埋め込みは問題なく可能)
  2. ルビをふったときもずれる。(後述:これも問題なく可能)
  3. リボン(原稿用紙中央にある飾り)を付けるオプションを付与すると割付けが無茶苦茶になる。(後述:これはどうやら B4 サイズ決め打ちらしい…… dvipdfmx で "-p b4 -l " を明示的に指定することで版組が可能である)
の三点なのだが、とりあえず、まあ使えるようにはなったということで……


【後記】この原稿用紙モードのアーカイブが阪大から落とせなくなっている(というよりも、よくもまあこの時代まで ftp server を生かしておいていただいたと、逆に感謝の念しきりなのであるが)。再配布自由らしいのでこちらから取れるようにしておくことにする。

tar.xz の方は、テキストを UTF-8、改行コード LF に変換し、余った EOF コードの除去を行ってある。.lzh の方が私の持っているオリジナルである。

あと余談ながら書き添えておくけれど、オリジナルのアーカイブを使用される場合、アーカイブ中のテキストのコード変換の際に tfm ファイルまで変換に通さないように(tfm ファイルはバイナリです)。これが原因で「動かない」と言われることがしばしばありましたよ。

Big Brother is watching you.

拙 bog エントリ『新しい中傷手法』で書いた、まさにそのものズバリのトラブルが、既に裁判沙汰になっているのは、皆さんご存知のことと思う。

グーグル検索の機能で犯罪連想、表示停止命じる

グーグルのインターネット検索サイトに自分の氏名を入力すると、「サジェスト」という機能によって犯罪を連想させる単語が表示されるのは名誉そんなどに当たるとして、日本人男性が米国のグーグル社に表示の停止を求めて仮処分を申し立て、東京地裁(作田寛之裁判官)が19日付の決定で停止を命じたことがわかった。

男性側の代理人によると、同機能の停止を命じる司法判断は初めて。同社は停止を拒否しており、現時点でも表示される状態が続いているという。

代理人の富田寛之弁護士によると、グーグルの検索サイトのキーワード欄に男性の氏名を入力すると、犯罪をイメージさせる単語が検索候補として表示され、選択すると男性を中傷するサイトが多数並ぶという。

男性はこれらの犯罪に関係した覚えがないのに、サイトの書き込みを理由に就職の内定が取り消されたこともあるといい、昨年10月、同地裁に仮処分を申し立てた。

審尋で同社側は「意図的に表示したわけではなく、検索候補として単語を並べただけで名誉毀損には当たらない」と主張したが、地裁は、男性の氏名を入力した場合の犯罪関連の単語の表示に限り、停止を命じた。

(2012年3月26日 読売新聞)

ちなみに、今日の時点で、google は「日本の法律で規制されることではない」「社内のプライバシーポリシーに照らして削除に該当する事案ではない」として決定に従わない方針を表明している。

ここ最近の google の振舞いに、正直言って僕は非常に強い違和感を持っている。google のトップは、google 創業のきっかけになった「情報の価値付け」技術である PageRank を開発したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、そして lex の開発者として著名なエリック・シュミットの三人による、いわゆるトロイカ体制なわけだけど、このような google の貪欲、かつ傲慢な戦略は、エリック・シュミットが会長に就任した去年初め頃から顕著になってきたような気がする。無論、その何年も前から、現状の布石は敷かれていたのだろうけれど、それにしても、去年以降、あっれー google ってもっと cool な社風じゃなかったけ? と首を捻ることが多過ぎる。

新しい中傷手法』を御一読いただければお分かりと思うけれど、上の事件の恐怖というのは、僕にとっては決して他人事ではない。僕の場合は、むしろ積極的に google の bot に情報を渡すようにして、僕を中傷するようなキーワードに対しては、自分が書いた『新しい中傷手法』へと誘導するような戦略で、先日の件に対抗しているわけだけど、僕個人に対して何らかの調査などが行われた場合を想定すると、あのような中傷があったというだけでも、僕には大きな損失なのである。たとえ書かれていることが無根拠なことであったとしても、だ。

ジョージ・オーウェルの『1984年』には、 Big Brother を賛美させんがために毎日午前11時から放送される "Two Minutes Hate" というプログラムの話が出てくる。このプログラムで、人々はスクリーンに投影される Emmanuel Goldstein に向かって怒号を浴びせ、その後に登場する Big Brother に賛美の歓声を向けるのである。Big Brother のために蹂躙される個人の存在など、彼等は気にもとめない。蹂躙される方に回りかけた僕には、これは骨身に染みた現実なのだ。

btrfs

先に書いた通り、破壊された環境を復旧させるべく不毛な作業に時間を割いているわけなのだけど、今回の作業では Linux 絡みのパーティションも全て新規に組むことになったので、ファイルシステムをどうしようか、と少し悩んだのだった。

現時点で、Linux のシステムで最もポピュラーなファイルシステムは ext4 だろう。Linux 正統とも言えるこのファイルシステム、リードライトも速いし信頼性も低くはないのだけど、次世代の btrfs に道を譲る日が来るのか……などと言われて久しい。まあ実際には、その btrfs の開発も進捗が捗々しくない状況なのだけど、現時点の Debian GNU/Linux では、btrfs ベースで環境を組むことは不可能ではない。

で、ちょっと実験してみたのだけど……結局、今回も ext4 ベース、という結論になった。btrfs は、実験して「え?」と思う程にリードライトが遅い。これぁダメでしょう。正直、使う気にはなれない。以前 XFS ベースでシステムを組みかけて、ライトの遅さに嫌気がさして元に戻した時以来のショックであった。

そう言えば、某 M 氏は ReiserFS で組んでたっけなあ……しかし、この ReiserFS 改め Reiser4 も、最近はひどく評判が悪い。結局他に選択肢がない、という状況で ext4 を使っているのだけど、この先のことを考えると……不安だなあ。ファイルシステムってのはシステムの土台だから、次世代を担う鉄板ファイルシステムの登場を熱望しているのだが……

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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